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お前の番だ! 28 [お前の番だ! 1 創作]

 良平は手に持っていた二枚の紙を今気づいたように万太郎に手渡すのでありました。
「ああ、恐れ入ります」
 万太郎が受取ろうとしてそう礼を云う語尾に丁度重なるタイミングで、廊下の方から良平を呼ぶ声が上がるのでありました。その声は聞き覚えのあるもものでありました。
「おうい、面能美、何処に行った!?」
 良平は万太郎に向けていた愛想の笑いを素早く消して立ち上がると、道場入口の引き戸まで趨歩して廊下の方に顔を出すのでありました。
「見学の方がいらしたので道場に案内しております」
 良平が廊下の先に向かってそう云った後、引き戸に手を添えて気をつけの姿勢でやや頭を下げるのは、その廊下の人物が道場の方に来ようとする気配からでありましょう。で、道場に現れたのは、万太郎の予想通り鳥枝建設の鳥枝会長の無愛想面でありました。
「おう、折野君だな」
 鳥枝会長は道場の隅の方に万太郎が正坐しているのを見つけると、破顔して片手を上げて見せるのでありました。万太郎も顔を綻ばせてお辞儀するのでありました。
「お誘いに依りお邪魔しております」
 万太郎は近づいて来て向いあうように正坐した鳥枝会長にもう一度頭を下げるのでありました。前に鳥枝建設の会長室で見た時も、なかなか精力的な体香の御仁であると云う印象ではありましたが、こうして稽古着に袴姿で現れた鳥枝会長はいよいよ以って溌剌としていて、先の時よりは数段若やいでも見えるのでありました。
「稽古着は持っているかね?」
 鳥枝会長は、いやここからは、鳥枝範士、と呼ぶ方が場にあっているでありましょうが、そんなせっかちな事を訊くのでありました。
「いえ、今日は見学と云う事でお伺いさせて貰ったので。今、そちらの門弟の方に入門案内と申込書をいただいたところです」
 万太郎は鳥枝範士の後ろに控える良平の方を見ながら云うのでありました。
「ああそうか。しかし内弟子になるんだから、そんな面倒なものは出さんでも構わんよ」
 鳥枝範士はもうすっかり、万太郎が内弟子に入るものと勝手に決めてかかっているようであります。万太郎は少々及び腰になるのでありました。
「いやまあ、今日のところは取り敢えず見学だけをさせて貰いまして、常勝流をやってみるとか、内弟子になるとかはその後の話しと云う事で。・・・」
「おい面能美、稽古着を持ってきてやれ」
 万太郎がそう口籠もりながらごにょごにょと遠慮がちに云っている傍から、鳥枝範士は後ろの良平にそんな指示を勝手に出すのでありました。
「押忍。体格は自分と同じくらいだから四号の稽古着で大丈夫ですかな」
 この最初の、押忍、は鳥枝範士に顔を向けながら、後の方は万太郎の方に目を遣りながら云う良平の言葉でありました。
「何でも構わん。あれこれ云っとらんで適当に見繕って早く持ってこい」
(続)
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