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お前の番だ! 22 [お前の番だ! 1 創作]

 ま、序にこの場での鳥枝会長の言辞について少し云い添えておけば、貸与されるべきフカフカの寝心地の良い布団、と云うのは明らかな虚偽でありました。他の言葉の内容にしても取りように依ってはそう云う結構尽くしに取れない事もないけれど、万太郎としては何となく釈然としないものが多々残るところであります、・・・が、それはまあ兎も角。
「早速だが、今度の土曜日に一度稽古の見学に来んかね?」
 鳥枝会長がたたみかけるのでありました。
「調布の本部道場の方へ伺えばいいのでしょうか?」
 こう訊き返すのでありますから万太郎は行きがかり上も、心情の上に於いでも、何となく既に見学する気になっているのでありました。
「そう。内弟子と準内弟子の専門稽古が午後一時から、その後の一般稽古が三時からあるが、勿論内弟子稽古の方を見に来た方がよかろうよ。その後に内弟子に入るに於いて、常勝流宗家である総士先生直々に色々説明等してもらうように取り計るが」
「総士先生は何というお名前でいらっしゃるのでしょうか?」
「是路搖歩先生とおっしゃる」
「ああ、随分前ですが武道雑誌か何かの古武道各流派紹介の記事だったかに、そのお名前が載っていた記憶があります。随分古風なお名前だと思って何となく覚えておりました。確かお写真もあったようでしたが、お顔の方はもう曖昧になって仕舞っていますが」
「ああそうかね。そうやって前に記事で見た総士先生のお名前を君がちゃんと覚えていたと云うのも、これは奇縁と云うのか、運命的と云うのか、前世からの因縁めいたものを感じる話しじゃないか。ワシが会社訪問に来た数多の学生の履歴書の中から、君の履歴書に目を止めたと云うのも、これは天の差配と云うのを感じないわけにはいかんだろうな」
 鳥枝会長はそんな観念論的な事を真顔で大袈裟に頷きながら云うのでありました。
「そうでしょうか?」
「そうは思わんかね?」
「思うような、思わないような。・・・」
「まあ、それはさて置き」
 鳥枝会長は咳払いを一つするのでありました。「では今度の土曜日、待っているからな」
「はあ。ただ、これでも一応就職活動中の学生ですから、土曜日に都合がつけばお伺いする、と云う事でよろしいでしょうかね?」
「そんなつれない事を云わんで、是非とも来い」
「ええ。行く心算でいますが、若しも行けない場合は申しわけないと思いまして」
「万々が一、突発緊急事態とか、命にかかわるような何事かが出来して、どうしても来る事が叶わないようなら、そういう時は仕方がないから当日午前中に道場に電話しなさい」
「判りました。そう云う場合はそうさせて頂きます」
「ま、しかし、屹度来い」
 鳥枝会長はまるで命令のような口調で云い募るのでありました。しかし万太郎としてはそれで特段気を悪くするような様子は見せないのでありました。
(続)
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