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お前の番だ! 21 [お前の番だ! 1 創作]

「成程そうではありますが、・・・」
「それに昔と違って今は内弟子と云っても、奴隷のように扱き使われるわけではない。週に一回は休養日も設けてあるし盆暮れの休みも慶弔の休みもある。飯は大盛りの食い放題だし着る物だって稽古着は供与するし、それに銭湯に行く必要もなければ光熱費の心配もしなくて済む。部屋代は勿論取らないし布団にしてもフカフカの寝心地の良いやつを貸す。暫く内弟子で稽古に励めばその内出稽古に行くこともあろうが、その折は、先生、なんと云われて敬われたりもする。普通に会社勤めをしていてもなかなかそうはいかんぞ。こんな好い事尽くめでその上小遣いまで貰えるのだから、これはもう泥棒みたいなものだな」
 鳥枝会長は一気に捲し立てるのでありました。しかしそんな結構尽くしの武道の内弟子があろう筈もない事は、万太郎にも朧げには判るのでありました。それでも何となく魅かれて仕舞うのは、これは偏に鳥枝会長の手練れた話し方のせいでありましょうか。
「お聞きしていると、ちょっと魅力的なお誘いのようにも思えてきました」
「な、そうだろう?」
 鳥枝会長の万太郎を見る目が微かに妖しく光るのでありました。
「ええ、まあ。・・・」
「将来だって、自前の道場が持てるように本部で色々と支援もする。若し万が一自前で立ち行かなくなったとしてもその時は不肖このワシが、この鳥枝建設で身柄を引き受けてどのようにでも身の立つようにする。そう云う将来の保険のようなものもちゃんとある」
「将来の保険があると云うのは、何とも心強いですねえ」
「な、そうだろう?」
 鳥枝会長の万太郎を見る目が、一層妖しく光るのでありました。どこをどう云う風に考えてかは確とは判らないのでありますが、自分も随分と鳥枝会長に見こまれたものだと万太郎は自尊半分、気後れ半分に思うのでありました。
「しかし大学四年間、特に公園での木刀の素ぶり以外の、運動らしい運動もしていなかったのですが、そんな体でも常勝流の内弟子としての稽古に耐えられるでしょうかね?」
「それは特に心配せんでも良いだろう。無意味に体力的にしごくなんと云う愚にもつかん、どこぞの学校の体育会のような真似は端からせんし、本来流儀として体力とか力とかを超えたところに常勝流の妙味があるのだから、その辺をたじろぐのは全く不要と考えて良い。本来、必要な体力は必要に応じて徐々につけていくと云うのは、運動の常識だ」
 鳥枝会長は如何にも柔和な物腰でそう云うのでありました。
「ああそうですか」
「まあ、それでも多少はきつい面もありはするが」
「それはそうでしょう。武道なのですから」
「そうそう。しかし、地獄のしごき、みたいな事はない。常識的な範囲での鍛錬だな」
「それなら、僕でも大丈夫そうですね」
「な、そうだろう?」
 鳥枝会長の万太郎を見る目が、益々妖し気な光沢を帯びてくるのでありました。
(続)
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