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お前の番だ! 15 [お前の番だ! 1 創作]

 鳥枝会長は万太郎が常勝流を知っていた事が嬉しかったらしく、ここでようやく無表情だった口の端に笑いを浮かべるのでありました。
「もうお長いんですか?」
 鳥枝会長の歳から考えれば相当のキャリアであろうと思われるのでありました。体つきやその太い手首や万太郎を睨む目つきなんかからしても、如何にも長年武道で鍛えた威圧感みたいなものが体躯の周りに漂っている感じでありますが、しかし土建屋さんの会長さんでもありますから、その纏っている威は仕事柄と云う風にも考えられるのであります。
「こう見えても総本部の範士をしておる。常勝流宗家、斯道では総士と呼ぶが、範士はその次席となるな。修業歴はもうぼちぼち五十年となるかな」
「へえ、それは、・・・」
 万太郎はその後、大したもので、と続けようとしたのでありましたが、しかしその云い草はキャリア五十年に垂んとする、しかも範士の称号を持つ人に対して如何にも若造が吐くには無礼で無神経な言葉であろう気づいて、後の言葉を有耶無耶にしたのでありました。
「何だ、わしが今云った事に疑義でもあるのかね?」
 鳥枝会長の口の端の笑いが俄に跡形もなく消え失せるのでありました。
「いえとんでもありません」
 万太郎は慌てて両手をせわしなく横にふるのでありました。「その後迂闊にも、大したもので、なんと云おうとして、急にその言葉の余りの不遜さに気づいて語尾を濁したのです」
「ふうん、そうかね」
 鳥枝会長の口の端の緊張がその言葉の後に少し緩んだように見えるのでありますから、一応万太郎の弁解をその儘聞き入れてくれたようであります。鳥枝会長は少し乗り出していた上体を、ゆっくりとソファーの背凭れに戻し沈めるのでありました。

 あゆみが鋭い気合いを発しながら激烈な木刀の面打ちを万太郎に浴びせるのでありました。万太郎はその剣勢を頭上に横にして翳した木刀の物打ちで紙一重にあわせて、素早く刃先を縦に回して切り返しの一刀を浴びせ返すのでありました。
 あゆみが上体を横に傾がせてそれを避けながら、袈裟に打ち下ろされてきた木刀を横払いに払うのでありました。木刀の搗ちあう音が人気のない道場に響くのでありました。
 二人は同時に一歩跳び下って一間の間合いを取ってあゆみは正眼に、万太郎は八相に木刀を構えて息を殺して相手の次の動きを待つのでありました。この後、先に自分の方から仕かけるよりも、相手の動きの起こりを捉えようと互いに気配を窺っているのであります。
 入門してきた二か月前よりも、万太郎の太刀筋が格段に鋭くなっているのがあゆみには判るのでありました。今のも刃をあわせる心算はなかったのでありますが、万太郎の袈裟切りを捌きだけでいなす余裕が全くなかったのでありました。
 だから已むなく横払いに万太郎の木刀の鎬に刃を当てたのでありました。あゆみの面打ちに対して万太郎は紙一重に刃を触れず太刀を返したと云うのに、自分は万太郎の木刀の鎬に自分の木刀の刃を、強かに当てて仕舞ったのであります。
(続)
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