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お前の番だ! 5 [お前の番だ! 1 創作]

 学生の前に立つ祭に、露払いの二人が最後尾の男を挟むようにして横隊に並ぶのでありました。真ん中の恰幅の良い赤ら顔がもう一度学生達を睨め回してから、厳ついその顔と風体とは裏腹な、甲高い声で徐に口を開くのでありました。
「人事部長の済陽史郎です」
 済陽史郎氏がそう云って浅くお辞儀をするのでありました。前に座った学生達の頭が夫々小さく前後に動くのは、人事部長の言葉に対して一礼を返すからでありました。
「これから我が社の紹介映画を上映した後、会社に対する諸君の質問なんかを受けつけて、その後に一次試験の日程やらその後の事等を案内します」
 そう云い終わると人事部長は横の若い方に顔を向けて、小さく頷いて合図を送るのでありました。若いのが頷き返して部屋の後ろの方に移動すると、そこに置いてある映写機のようなものを操作し始めるのでありました。
 タイミングをあわせるように痩せた中間管理職風が壁際にあるスイッチを操作して、部屋の照明を落とすのでありました。嫌に大きな白板だと万太郎は思っていたのでありますが、それは映像を映し出すスクリーンのようであります。
 映写機のフイルムを回す歯車の音が暗く静まった室内に響く中で、白板上に鳥枝建設の会社紹介映画が効果音楽と音声入りで映し出されるのでありました。先ずファンファーレの中を会社のロゴタイプが大写しに飛び出してきて、その後にやや間を空けて雲一つない青空が映し出され、カメラは次第に下に降りてきて地上の光景に変わるのでありました。
 それは何処かの大規模団地の建設風景なのでありました。カメラはその工事現場の中にゆっくりズームしていくのでありました。
 如何にも建設工事現場らしい音が響く中を、白いヘルメットに白い作業着姿の若い建設作業員の男達がきびきびと、或いは活き々々と額の汗を拭いながら働いているのでありました。作業服にネクタイの矢張りヘルメットを被った現場監督らしきが、図面を丸めた紙で方々を指し示しながら、これも実に手際良く親方衆や作業員等に指示を与えているのでありますが、映画のプロの手になるような、なかなか凝った会社紹介映画であります。
 映画には大規模団地の工事現場、その後に何処かの海峡に架かる大きな吊り橋の工事、それに恐らく何処かの険峻な山間の砂防ダム建設現場等の映像が流れるのでありました。それから製図板が部屋一面に並んだ設計部の仕事風景、会社所有のダンプカーやショベルカーや、それに大型の掘削機やクレーン車等の重機の映像もあるのでありました。
 他には朝の社員総出で律義にラジオ体操をする光景とか、若い社員達が屋上で楽し気にバレーボールをやっている昼休みの光景とか、女子社員が持参の弁当を円陣になってこれも屋上のベンチで、カメラを意識して如何にも照れ臭そうに食っている光景とか、伊豆の土肥と信州の蓼科高原にある厚生施設の露天風呂の風景とかが流れるのでありました。
 最後にもう一度最初に流れたファンファーレが鳴り響き会社のロゴタイプの大写しがあって、それで約十五分間の映画は終了するのでありました。万太郎は小学校の時に体育館で見せられた教育映画を思い出して、エンドマークに対して儀式的な拍手を送りたい衝動に駆られるのでありましたが、勿論そんな真似をするヤツは誰もいないのでありました。
(続)
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