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もうじやのたわむれ 359 [もうじやのたわむれ 12 創作]

 叔父はしかし、この自分の返答がこう云う場合に、しっくりしているのかどうか全く自信がないようで、他に何かもっと状況に適した事を云いたいそうな素ぶりは見せるものの、当為の言葉が探り当てられないのでありましょう、只々困惑の表情で口を半開きにした儘、拙生を睨んでいるのみでありました。何となく拙生と叔父は、その後に会話を続ける事が出来ずに、長い時間、なかなか勝負のつかない睨めっこを続けているのでありました。
 叔父との睨めっこの後の出来事に関しては、叔母が取り乱して泣くわ、高校生の娘が足を見せろとしつこく云って、拙生が幽霊ではない事の古風な確認をしたがるわ、葬儀屋の番頭がこんな場合、どう云う風の葬儀代の請求をするべきかと悩まし気な顔をするわ、目を覚ましたカカアが拙生の顔を見てもう一度卒倒するわ、警官が大勢来るわ、救急車が来るわ、序に消防車まで一台来るわ、人だかりがするわ、その人だかりがみるみる大きくなるわ、その人だかりを目当てに弁当屋が来るわ、露店が出るわ、金魚掬いが出るわ。・・・
 ま、そんなこんなの大騒動の後に拙生は前に娑婆にお娑婆ら、いや違った、おさらばした時の、その同じ病院に連行されて、色々な検査やら何やらを再度受けさせられて、先回の診断には一部誤診があったようである、とか云う病院側の再検査後の結論を頂戴した後、ばつの悪そうな病院関係者の顔に見送られて、二日程で退院を許されるのでありました。
 拙生の今回の件に関しては、実は病院側には落度は一つもないわけで、拙生としては秘かに申しわけないような心持ち等するのでありました。しかし実際にあった事情を吐露して事が面倒になるのを嫌って、拙生はあちらでの出来事に関しては一途に沈黙を守るのでありました。それで以って家族親類の、安堵と迷惑の心胆相半ばする複雑な顔に迎えられて家に落ち着くのでありましたが、件の叔父がこれは病院のとんでもない不手際ではないかと、強い憤懣を表明するのでありました。拙生としては、テレビとか新聞に訴えてやると息巻く叔父の剣幕を何とかなだめて、只管穏便に事を収めようとするのでありました。
 ところで、あちらの世で大酒呑太郎氏から渡された、洞窟の受付係りのよもつのしこめ姐さんへ宛てたあの秘密の手紙は、洞窟の暗闇の中で亡者の仮の姿が潰れて吹き飛んで仕舞った時に、一緒に何処かへ掻き消えて仕舞ったのでありましたが、閻魔庁から記念に貰った小ぶりの湯呑の方は、病院から家に帰って来ると、先にちゃんと無事にこちらに到着しているのでありました。それは拙生の家にある仏壇の中に、仏様への献茶用の湯呑として、まるで前からずっとそこのあったかのように、ちんまり収まっているのでありました。
 何故それがあの湯呑であるのか拙生に判ったかと云うと、仏壇の中に元々一つしかなかった筈の献茶の湯呑が二つもあって、その一つには金色で丸に下り藤の家紋ではなく、肌色で漫画のようなピースサインが描かれていたからでありました。これは手に取る者の心次第で、描かれている図柄がどのようにでも見えると云う、あの愛想をする湯呑に間違いないではありませんか。拙生の家の仏様の湯呑に、ピースサインの絵柄の湯呑なんと云う何とも奇抜なものは、これまで見た事もなかったし、どだい使うわけがないのであります。
 拙生は仏壇からその湯呑を取って、拙生の使っている机の引き出しの奥に、そっと仕舞うのでありました。すると絵柄は、手指で作るOKサインに変化するのでありました。これであの湯呑に絶対間違いありません。拙生はニンマリと笑うのでありました。
(続)
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