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もうじやのたわむれ 353 [もうじやのたわむれ 12 創作]

 亀屋技官と父老との関係はどう云う風になっているのか、どう云う経緯で関係が出来たのか、或いはどう云う利で繋がっているのか、多少興味のあるところではあります。しかしこれから娑婆に逆戻ろうと云う拙生には、取り敢えず関係のない事柄でありますか。
「ほんじゃあ、これからこの洞窟を使用させて貰っても大丈夫だな?」
 亀屋技官が番鬼に横柄な口調で念を押すのでありました。
「旦那、これから娑婆にちょっかいをお出しになるので?」
「お前さんに、これからこの洞窟を使う理由を説明しなければならんのかい?」
「いやとんでもない! そんな事は訊いておりませんわい」
番鬼が両手をせわしなくふって、慌てて取り繕うのでありました。「へえもう、こんな小汚い洞窟で宜しければ、どんな理由であろうが存分にお使いくだすって結構ですわい」
 番鬼はたじろぎながら、何度もお辞儀をして見せるのでありました。
「と、云う事で、さあいよいよこの洞窟から娑婆に逆戻っていただきますかな」
 亀屋技官が拙生に笑顔を向けるのでありました。洞窟の中を覗くと、松明が数本点されていて、その炎の影が洞窟内の空気を揺らしているのでありました。
 入ってほんのすぐ先の処に、巨大な岩塊が洞窟を殆ど塞ぐように転がっていて、脇に人一人が、まあここも、人、と云う表現で構わないでありましょうが、兎に角、体を斜にすればかろうじて通り抜けられるくらいの、僅かなスペースが空いているのでありました。その隙間の向こうには絶望的になるくらいの、全くの暗闇が充満しているのでありました。
 岩塊を背にして、その手前には粗末な木製の机が置いてあって、その机を前に小柄な鬼が一鬼、こちら向いて蹲るように椅子に腰かけているのでありました。後ろの岩塊に、松明の炎に照らされたその鬼の影が、薄暗く揺らめいているのでありました。柄の大きさからして、恐らく女の鬼であろうと見当をつけるのでありましたが、この鬼が屹度、大酒呑太郎氏が云っていた、洞窟の受付係をしている、よもつのしこめ姐さんでありましょう。
 洞窟内の様子の薄気味悪い気配に臆して、拙生が中に入るのを躊躇っていると、亀屋技官が拙生の背を軽く押すのでありました。
「さあどうぞ、中にお入りください」
「私一人で入るのですか?」
 拙生は怯んだ声で聴くのでありました。
「いや、千引の岩と云うあの道塞ぎの岩の処までは私が一緒に行きます」
 亀屋技官が陰鬱な声で云って、また拙生の背を軽く押すのでありました。
「補佐官さんや護衛のお二人さん、いや違った、お二鬼さんは一緒に中に入れないので?」
 拙生は縋るような目を補佐官筆頭に向けるのでありました。
「ええ、入れません。そう云う決まりなのです」
 補佐官筆頭が気の毒そうな顔で云うのでありました。
「なあに、あの岩さえ超えればそれ以上奥に入る必要はなくて、後はあっと云う間に娑婆に逆戻る事が出来ると云う按配らしいですから、然程の心配はご無用でしょう」
 逸茂厳記氏が拙生を勇気づけるのでありました。
(続)
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