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もうじやのたわむれ 348 [もうじやのたわむれ 12 創作]

「おう、よう来たのう、亀の旦那」
 父老はそう野太い声で云って、髭と肩を大袈裟に揺らしながら大笑するのでありました。父老と云うからには、すっかり老齢なのかも知れないとも拙生は勝手に思っていたのでありましたが、黒々として強そうな髭や、その髭だらけの顔から少しく覗く目元の表情や皮膚の色艶から察して、歳回りは補佐官筆頭とそうは違わないくらいでありましょうか。
「また厄介な仕事でやって来たよ。父老も元気にしていたかね?」
 亀屋技官はちっとも遜らないもの云いをするのでありました。黄泉比良坂集落の父老よりも、娑婆交流協会の職員の方が準娑婆省では偉いのでありましょうか。
「あんた等がつまらない規則なんぞ作って、鬼共の娑婆に出すちょっかいを色々制限するもんじゃから、洞窟を管理するワッシ等の実入りが少のうなって困っとるわい」
「まあ、それは仕方がないね。上の方針なんだから、こちとら下っ端は口出し出来ないからねえ。実入りを増やしたかったら、準娑婆省政府とか娑婆交流協会のお偉いさんに定期的に渡している袖の下を、もっと奮発する事だね。それが一番効く方法だろうからねえ」
 亀屋技官は外部の拙生や閻魔庁職員の目の前も憚らず、そんな胡散臭い内輪の話しを父老と無神経に交わしているのでありました。
「別に袖の下をケチっとるわけじゃないが、もうここの住鬼共から搾り取る金もそろそろ限界にきておるから、奮発したくともなかなか出来んのじゃよ」
「まあ、その辺は父老の悪知恵に任せるとして、そのちょっかいの制限の穴埋めと云うのじゃないんだけれど、こんな物をお土産に持ってきたよ」
 亀屋技官は上着のポケットから拳大の石ころを取り出して、ぞんざいな仕草で父老に手渡すのでありました。「この石はちょっと上玉だぜ」
 父老は石ころを蝋燭の火に近づけて、暫く矯めつ眇めつ眺めているのでありました。
「成程、こりゃ上玉だ。色あいと云い、念の出方の可憐さと云い、なかなかの代物だのう」
 父老は大袈裟に喜ぶのでありましたが、仄見る限り、その石ころは娑婆の道端にざらに転がっている、価値もない石ころと同じようにしか拙生には見えないのでありました。
「そうだろう? そんじょそこらじゃ見つけられない石ころだよ」
「確かに。これは屹度、別嬪の女の亡者の成り変わった石ころじゃなかろうか」
 父老は石ころを掌の上で転がしてみたり、軽く弾ませて重さを確かめたりするのでありました。「まあ、ワッシのコレクションの中にも、これに敵うものは五個もなかろう」
 どうやらこの石ころは準娑婆省に、本意か不本意かは判らないものの、連れてこられた亡者の、仮の姿を喪失した後の成れの果ての石ころのようであります。拙生は思わず父老の掌の上の石ころを、たじろぎを隠して凝視するのでありました。亡者の成れの果ての石ころは、時にこうして準娑婆省の鬼達のコレクションにされるのでありましょうか。
 横にいる補佐官筆頭の顔を窺うと、目に少しの緊張を湛えて、矢張り不老の持つ石ころに目を釘づけているのでありました。屹度、閻魔庁に帰ったら早速この石ころの事を、然るべき部署に報告するつもりなのでありましょう。それで閻魔庁として隠密裏に父老の手から救出して、霊に生まれ変わるための救済措置を施そうと云うのでありましょう。
(続)
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