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もうじやのたわむれ 347 [もうじやのたわむれ 12 創作]

「最初に父老の家に寄って、洞窟使用の許可を貰いましょう」
 亀屋技官はそう云いながら、車のハンドルを左にグイと切るのでありました。
「父老、と云うのは黄泉比良坂集落の村長さんみたいな方の事ですか?」
 拙生が訊くのでありました。
「まあ、村長と云えなくもないですが、この集落の住鬼総意の自然発生的顔役ですね」
「昔で云う庄屋さんみたいな感じでしょうかね?」
「庄屋と云うよりは、集落内の立法と行政を統括していて、また保安官でもあり裁判官でもある、絶大なる権力者ですな。生殺与奪の権も握っていると云う」
「ほう、生殺与奪の権も握っているのですか」
 拙生は厳めしい顔をした、時代劇に出てくる山賊の親分を思い浮かべるのでありました。
 父老の屋敷は集落の中心の、土を盛り固めただけの低い塀を廻らした広い敷地の中にあるのでありました。これもテレビの時代劇なんかによく出てくる、田舎の大寺の総門のようなものが設けてあって、藁葺きの門廡の下には土色をした麻製か何かの粗末な貫頭衣を着て、藁縄で腰の辺りを縛っただけの、人相の、いや違った、鬼相の悪い門番と思しき若い衆が二鬼立っていて、前に止まった我々の乗った車を胡散臭げに見遣るのでありました。
「娑婆交流協会の亀屋が来たと、父老に伝えてくれ」
 運転席のウィンドウを開けて顔を外に出して、亀屋技官が若い衆に声をかけるのでありました。若い衆等と亀屋技官は初対面ではないようで、若い衆はニヤと薄気味の悪い笑いを返してから、一鬼が早速屋敷の中に注進に走るのでありました。
 暫く待たされてから中に消えた門番が戻ってきて、手で中に入れと亀屋技官に向かって合図をするのでありました。車は門の敷居を乗り越えて、屋敷の中に進入するのでありました。敷居を乗り越える時に、車がグランと大きく揺れて、拙生の尻はシートから浮くのでありました。元々が、車の進入なんかを考慮して造られた門ではないのでありましょう。
 広い敷地の中は、手入れの行き届いた庭、と呼べるような風情は一切ないのでありました。この屋敷の建つ前からそこにあったのであろう、無軌道に枝を張った大木が道塞ぎに峙っていたり、苔生した古丸太が乱雑に積まれていたり、何を運ぶためのものか大八車が何台か、てんでの方角を向いて止まっていたり、大木の木蔭では蓆を引いてそこに円座になった幾鬼かの、先程の門番の若い衆と同じような身なりをした連中が、傍らに酒の入った大徳利を何本も置いて、まるで娑婆の花札博打をしているような身ぶり手ぶりをしながら、時に云い争うような大声を発したり、卑俗な高笑いをしたりしているのでありました。
 奥に建つ大きな屋敷の入り口にも、番鬼が立っているのでありました。亀屋技官を除いて、我々は屋敷に足を踏み入れる前に、番鬼から入念で少々手荒いボディーチェックを受けるのでありました。なかなかに厳重な警戒態勢であります。こんな大袈裟な警戒をしなければならないと云う事は、父老には多くの敵がいると云う事なのでありましょうか。
 屋敷とは云っても広い土間だけの廃屋のような家で、奥の暗がりの中に、幾本かの蝋燭の明かりに囲まれて、顔中髭だらけの大柄の男が、矢張り貫頭衣ではあるものの、こちらは真っ赤な色のものを着て、蓆の上にどっかと胡坐をかいて座っているのでありました。
(続)
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