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もうじやのたわむれ 331 [もうじやのたわむれ 12 創作]

「では、ここいら辺で娑婆に逆戻る算段の話しをさせていただきます」
 亀屋技官が話しを元に戻すのでありました。「因みに一応云っておくと、私は先祖代々準娑婆省に住んでいる鬼でして、地獄省とか極楽省から移り住んできたのではありません」
「ああそうですか」
「まあ、そんな事はどうでも良いですが、段取りの件について云うと、先ず亡者さんはここから離れた山間にある、黄泉比良坂と云う処にある洞穴に行って貰います」
「黄泉比良坂、ですか?」
「そうです。黄泉比良坂は地名です。そこに小さな集落がありまして、その外れに、向こうの世とこちらの世を繋ぐ洞穴があるのです」
「黄泉比良坂と云えば、日本神話に出てくる、伊邪那岐命と伊邪那美命が凄まじい夫婦別れの言葉を交わした、現世と黄泉の国を隔てる境界の坂と同じ名前ですな」
「それは存じません。私は日本神話なんかには全く無関心でここまで過ごしてきたので」
 亀屋技官は拙生が話しの腰を折ったのが少し不愉快であったらしく、無愛想にそう云って眉間に少しの皺を寄せるのでありました。外貌は温厚そうに見えはするものの、この準娑婆省の鬼はひょっとしたらかなりの気難し屋で、冗談とか洒落の通じない無粋なヤツかも知れないと推察して、拙生は少し気分が悄気るのでありました。
「余計な事を云って、どうも済みません」
 拙生は娑婆の落語家の林家三平師匠の真似をして、指先を額につけるのでありましたが、この拙生の挙措を亀屋技官は胡散臭そうな目でちらと見て、すぐに拙生の目から僅かに視線を背けて、娑婆逆戻りの段取りの話しを続けるのでありました。
「兎も角、その黄泉比良坂の洞窟の中には、千引の岩と呼ばれている大きな岩が洞窟を塞ぐようにありまして、その岩の隙間を擦り抜けると娑婆に逆戻る事が出来るのです」
「ふうん、成程ね」
 拙生は口を尖らせて何度か頷くのでありました。「そこがこちらの世と娑婆の境界線と云う事なら、我々亡者も、そこを通ってこちらの世に来たのでしょうかね?」
 これは亀屋技官に訊いても迷惑顔を向けられるだけだと思ったので、大岩会長の顔を見ながら質問するのでありました。
「いやいや、その洞窟は娑婆とこちらを繋ぐ正規の通路ではないので、亡者さん達は別のルートでこちらに来る事になっておりますよ」
 これは今まで沈黙を守っていた、大酒呑太郎氏と思しき仁が、大岩会長に代わって云う言葉でありました。拙生はゆっくりそちらに視線を向けるのでありました。
「別のルートですか?」
「そう云う事ですなあ。・・・ああ、自己紹介が遅れましたが、私は娑婆交流協会の顧問をしておる大酒呑太郎と云う鬼です」
 大酒呑太郎氏は拙生に一礼して見せるのでありました。
「これはどうも。ご貴殿のお噂は、私の横にお座りになっているこの閻魔庁の補佐官さんとか、香露木閻魔大王官さんからちらと伺っておりますよ」
(続)
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