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もうじやのたわむれ 324 [もうじやのたわむれ 11 創作]

 この地獄省の広大な租借地を抜けて暫く走ると、道に沿ってぽつんぽつんと、殆どが平屋か二階建て程度の粗末な民家らしき建物、それに食料品や雑貨を扱う小規模の、古い木材を継ぎ接ぎしてようやく建物らしく造ったような商店、家の横の空き地に椅子とテーブルを並べて食事や酒類を供する、食堂とか飲み屋とか喫茶店の類、それからバイクや自転車の修理屋とか云った店が現れ始めるのでありました。また野菜とか花とか、或いは自ら漁した魚類を、道端に乱雑に並べている露天商なんかも多く見られるのでありました。
「この辺は準娑婆省の省霊や鬼が住む地域ですかな?」
 拙生は補佐官筆頭に尋ねるのでありました。
「そうですね。この辺の光景と云うのは、私等の親の世代から話しに聞いている第二次省界大戦よりももっともっと前の、大昔の貧しかった頃の地獄省の光景と同じだと云う事です。観てみると連中の纏っている服も何となくみすぼらしいですし、中には靴を履いていないのもいます。仕事もなく、また仕事を見つけようという気もなく、毎日ブラブラと徒食に明け暮れていると云った風情の、如何にも生気のない顔ばかりが並んいるでしょう」
「生気がないかどうかは私には顔からはよくは判断出来ませんが、まあ、至ってのんびりしていると云った風はありますかなあ」
「この辺の連中には様々の職業の能力も殆どありませんから、街でちゃんとした就職口も見つけられないでしょうし、職業訓練なんかも政策として一切施されませんので、準娑婆省では多くの霊や鬼が貧困から抜け出せないのです。おまけに土地が痩せているのに土壌の改良なんかもされませんし、三途の川で漁すると云っても漁法が原始的な儘ですから、そう多くの漁獲高は端から望めません。第一に、自分たちの貧困状況を何とかしようという意欲的な心性が連中には全く欠けていますから、処置なしと云ったところでしょうな」
 補佐官筆頭は同情の欠片も含まない云い様をするのでありました。
「まあしかし、嘗ての地獄省もそうであったと云う事なら、こちらもその内に大発展するかも知れませんよ。何かしら飛躍の切っかけさえあれば」
 拙生は別に準娑婆省に何の恩義もないのでありましたが、補佐官筆頭のまるで立つ瀬もないような言い方に、ちょっと抗いたくなってそう云うのでありました。
「さあ、それはどうでしょう。地獄省と準娑婆省では省霊、或いは省鬼の気風と云うのか、性根と云うのか、そう云うものが全然違いますからねえ」
 補佐官筆頭はあくまで冷淡なのでありました。「まあ、こちらを見ていると、幾ら邪馬台郡が地獄省の中の他の地方に、発展の度合に於いて後れを取っているとは云っても、ここよりは遥かにマシですし、どだいここと比べるのも邪馬台郡に失礼と云うものでしょうね」
 もう暫く走ると、我々を乗せたマイクロバスはどうやら街中に入ったようでありました。しかし街中とは云っても、道幅も狭く舗装も不備な幹道沿いに並ぶのは、古びた低層の建物ばかりで、人通り、いや違った、霊或いは鬼通りも少なく、街は閑散としているのでありました。拙生は車窓を流れる風景を見ながら、何となく陰鬱になるのでありました。
「さて、そろそろ目的地の、娑婆交流協会の建物が見えてきますよ」
 補佐官筆頭がそう云いながら前を指差すのでありました。
(続)
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