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もうじやのたわむれ 317 [もうじやのたわむれ 11 創作]

「大丈夫ですよ。我々三鬼で責任を持って、亡者様を確実に娑婆にお戻し致しますから」
 発羅津玄喜氏が頼もし気に胸を叩くのでありました。
「へい、有難うございます。そこのところはお三方に全幅の信頼を置いておりますから、特に何も心配してはおりません。心配なのは娑婆に戻った後の事です」
「そこいら辺りの問題となると、申しわけありませんが、私達は埒外におります。あくまで私達の責務は、亡者様を娑婆に逆戻しするまで、と云う事になりますから」
 逸茂厳記氏が恐縮のお辞儀をして見せるのでありました。
「それはそうでしょう。その辺は私も充分承知しております」
 拙生は逸茂厳記氏の恐縮のお辞儀に、同様の恐縮のお辞儀を返すのでありました。「しかし考えてみたら、同じ肉体に逆戻る場合、まあ、違う肉体に逆戻る場合も同じなのでしょうが、娑婆の方の人間としたら、一度死んだヤツが生き返ると云う現象に立ちあう事になるのでしょうから、それはもう、腰を抜かさんばかりにおっ魂消るでしょうね。何となく、その辺のすったもんだの大騒ぎをあれこれ想像すると、些かげんなりして仕舞いますよ」
 先の呑気で浅ましい考えは披歴しないで、拙生は別の気鬱について云うのでありました。
「それは確かに上を下への大騒ぎとなるかも知れませんね。しかし大騒ぎは大騒ぎでも、どちらかと云うと意味あいとしては、嬉しい方の大騒ぎになるわけじゃないですかね」
 逸茂厳記氏がこの場合の大騒ぎの意味あいを釈義するのでありました。
「ああ成程。それはそうなりますかな。ま、色々な大騒ぎがあるかも知れませんね」
 拙生は納得の頷きをしてから、皮肉な笑いも浮かべるのでありました。
 さあて、拙生が生き返った時、嬉しい大騒ぎをするヤツと、がっかりの大騒ぎをするヤツと、その辺の見極めをするのも一興ではありますかな。ちょっと楽しみであります。
 そうこうしている内に拙生がコーヒーを飲み終えたものだから、我々は喫茶店を出て船内散歩を再開するのでありました。
 船内をゆっくりぐるりと一渡り回って元の上のデッキの客室に戻ると、補佐官筆頭がその時点でのなすべき仕事を大方終えたのか、靴を脱いでシートに上がりこんで足を胡坐に組んで、巻物を広げて熱心にそれに何やらを万年筆で書きこんでいるのでありました。
「おや、ひょっとしたら俳句を捻っていらっしゃるので?」
 拙生は補佐官筆頭の俯いた頭に向かって声をかけるのでありました。
「ああ、これはお帰りなさい。もう散歩はお仕舞いですか?」
 補佐官筆頭が顔を起こして愛想笑うのでありました。
「いやもう、乗船した亡者が退屈しないようにと、船旅を堪能出来る豪華な設備が、色々満載されているのですねえこの船は。改めて驚きましたよ」
「こちらにいらしたばかりの亡者様は心細い思いをされているでしょうし、それを少しでもお慰め出来ればと云う閻魔庁の心配りの一つですな。向うの世で語られる三途の川や渡し場の風景等は、見るもおぞましくおどろおどろしいイメージだそうですし、閻魔大王官もその取り巻きの我々鬼も、居丈高な怖いヤツだと云う風に思われているらしいですから、そんな事はないし、どうぞご安心くださいという最初の我々のメッセージでもあります」
(続)
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