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もうじやのたわむれ 286 [もうじやのたわむれ 10 創作]

「ああ、そう云う事かいの」
 閻魔大王官は頷くのでありました。
「向うの世を引き払ってどのくらいの時間を経て、三途の川を渡る豪華客船に乗る行列に並んだのか、迂闊にもその辺の時間感覚は茫洋としておりますが、まあしかし、三十五日とは云わないまでも、私がこちらの世に来てから、思い悩みの三日間と云う名目の、遊びの時間も含めて、少なくとも四日以上は経過していると云う勘定になると思うのですが?」
「その前に伺うが、娑婆時代の奥方がお手前の頭の中に現れたとな?」
「ええ。そいで以って愛想の一つだに云わないで、寧ろ色々、娑婆の時と同じげんなりするような小言やら繰り言やらをべらべら並べて、それから忙しそうに帰って行きましたよ」
「ほう、そうかいの。普通は娑婆に居る人間は、例え亡者殿の頭の中にであろうとも、こちらに来る事は絶対出来んと云われておるのじゃがのう」
 閻魔大王官は不思議そうな顔色でそう云いながら、巻物でゆっくり何度も、もう一方の自分の掌を軽く叩いて見せるのでありました。
「ああそうなのですか? しかし現にカカアはやって来ましたよ」
「いやあ、考えられん事じゃな、それは」
「するとあれは、夢だったのでしょうかね?」
 拙生も自分の掌を叩く巻物が欲しくなるのでありました。「まあ確かに、ベッドに入って酒をちびちびやりながら、どうでも良い事をあれこれぼんやり考えたりしていたのでしたが、その内に何時の間にかエネルギーが切れて、寝入って仕舞ったのかも知れませんが」
「いや、そうであったとしても、亡者殿は夢は見んのじゃよ、基本的には」
「ああそうなのですか?」
 拙生は少し驚くのでありました。
「亡者殿の仮の姿を卒業して魂魄となった後では、意識朦朧とした状態で浅く眠ったような風になるから、その折は夢を見ると云う事例も稀に報告されておるようじゃが、亡者殿が夢を見たと云う話しは、ワシは今まで聞いた事がないのう」
「それじゃあ、あの、カカアが私の頭の中に現れた、と云う現象は何なのでしょうかね?」
「いや、俄かには判らんわいの。車酔いと同じで、ひょっとしたら亡者殿によっては夢を見る事があるのかも知れんのう。今後の研究課題と云う事になるのじゃが、お手前のその話は一応、上に報告しておかねばならんのう。そうすると生まれ変わり準備室に行く前に、仮の姿が消滅して仕舞わん内に、ご苦労な事じゃが、別室で閻魔庁の亡者生理研究所の研究員の、聞きとり調査を受けて貰う事になるかも知れんがのう。まあ、お手間は取らさんよ。幾ら時間がかかったとしても、お手前の仮の姿が消滅して仕舞うまでの短い時間じゃ」
 閻魔大王官の言葉を聞きながら、拙生は面倒な事になったなと思うのでありました。うっかり妙な事を訊いたがために、煩わしい仕儀を招いて仕舞ったようであります。億劫がりの拙生が娑婆時代にも好きでそうしていたように、無駄に無精に手持無沙汰を楽しみながら余った時間を遣り過ごして、ある種のエロチックな気持ち良さなんぞを味わった上で、早々に魂魄となって薄ぼんやりしてしまおおうかなと考えていたのでありますが。・・・
(続)
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