So-net無料ブログ作成

もうじやのたわむれ 281 [もうじやのたわむれ 10 創作]

「放っておく、のですか?」
 拙生は少し驚いたような表情をして、閻魔大王間の言葉をなぞるのでありました。
「そうじゃ。そうなるとこちらとしても打つ手なしじゃからのう」
「放っておかれた亡者は、一体全体どうなるのですか?」
「当面、知ったこっちゃないわい」
 閻魔大王官はすげなく云い放つのでありました。「まあ、そう云う不貞の亡者の行き着く先は準娑婆省と決まっておるのじゃが、準娑婆省では仮の姿も喪失して、その結果大体は道端の石ころとなり果てて、体の自由もなく喜怒哀楽や意志を伝達する術もなく、将来の夢や希望からも見放されて、目もなく鼻もなく耳もなく、美味いものを食う口もなく、真っ暗闇と無臭無音の中で、飢餓と完全不自由に苦悶しながら、準娑婆省の連中に蹴飛ばされたりして、永遠に石ころとして無意味に準娑婆省に存在し続ける事になるのじゃよ」
「ふうん、そうですか。当然そうなるとこちらの世の次の素界にも行けなくなるのですね?」
「そうじゃ。路傍の石ころとして、こちらの世に留まり続けると云う按配じゃ。その石ころも、雨風によってその内に破砕されて仕舞うわいの。破砕される時には途轍もない痛みが伴うと云う事じゃ。そうして破砕された後は一粒の砂となって土中に紛れて仕舞うわいの。その砂も永遠に砂であり続ける事は出来んじゃろうから、また痛い思いをして何かに変わって仕舞うのじゃ。しかし真っ暗闇と無臭無音の環境は何時まで経ってもその儘じゃ」
 閻魔大王官はさも恐ろし気な口調でそう云うのでありました。
「考えように依っては、石ころから色々なものに変化しながらではあるにしろ、しかしこちらの世で永遠の生を手に入れる事になる、とも云えるわけですよね、それは?」
「そう云う石ころみたいな存在で良いのなら、そうとも云えるがのう」
 閻魔大王官は大袈裟に顔を顰めるのでありました。
「ええとところで、そうするとつまり、約一週間のこの今の仮の姿の後は、我々亡者は皆石ころになるのですかね?」
「ま、それは最終的に準娑婆省に流れ着いた不貞の亡者がそうなると云う話しじゃ。普通の順当に生まれ変わる亡者殿は、この審理を終えた後、生まれ変わり準備室、と云う名前のついた部屋に行って、魂魄、と呼ばれる気体になって生まれ変わりを待つ事になるわいの。因みに云うが、仮の姿から魂魄になる時には、痛みなんぞは全然感じないで済むわいの。それどころか寧ろ何となく、ある種のエロチックな気持ち良さなんぞが伴うわいの」
「エロチックな気持ちよさ、ですか?」
「ま、それはその時のお楽しみ、と云う事で気体、いや、期待しておいで」
 閻魔大王官はそう云う洒落も抜かりなく云いつつ、何やら意味ありげなウインクなんぞを拙生に送って見せるのでありました。その後で拳にした手を口に添えて咳払いを一つした後、閻魔大王官は石ころになって仕舞う不貞の亡者の話しを続けるのでありました。
「ところで準娑婆省の石ころとか砂粒になった亡者は殆どの場合、真っ暗闇と無臭無音の環境の中で永遠に陰鬱に生き続ける事に心底げんなりして、次第に強烈な後悔と反省の心根が芽生えてきてじゃの、真人間、いや真亡者の了見を段々取り戻すのじゃよ」
(続)
nice!(7)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 7

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0