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もうじやのたわむれ 270 [もうじやのたわむれ 9 創作]

「ええもう、三日間出突っ張りで」
「それで何もお買いにならなかったのでしょうか?」
「ええ、特に何も」
「気に入ったお土産品が何もなかったのでしょうか?」
 補佐官筆頭は怪訝な顔をするのでありました。
「いや特にそう云う事ではなくて、私は根が無精な方ですから。何か買おうと云う意識そのものも、頭の中にちらとも湧き上がってこなかったのですなあ。それにお土産を買ったとしても、今の私には渡すべき相手が誰もいませんから全く無意味な気もしましたしねえ」
「それはそうですが、外に散歩やら観光に出られた他の亡者の皆さんは、大体は色々ショッピングをお楽しみになりますよ。それに渡すべき相手がいないと云う事ですが、しかしこちらに生まれ変わった後何時か必ず自分の手元に届くのですから、将来の自分のために買う、と云う動機は成立いたしますし。亡者様の中にはどうせ一銭も要らないんだからと、もう抱え切れないくらい沢山のお土産品を持ちこみになられる方もいらっしゃいますよ」
「ふうん、そうですか。しかし私に関しては、宿泊施設の階下の店とか、それに街中にある色んなショップとか、邪馬台銀座商店街の中のデパートとか、寄席の六道辻亭の売店とか、その他の観光先のお土産品屋さんなんかを覗いても、何か買おうと云う気は全く起きませんでしたねえ。まあ、愛想のない話しで慎に申しわけない次第ではありますが」
 拙生はそう云って苦笑うのでありました。
「娑婆におられた時は、至極あっさりしたご性格でいらしたのでしょうか?」
「いや、そんなには淡白ではなかったように思いますがね」
「ま、お土産を買おうが買うまいが、それは個人の、いや個亡者の勝手じゃわい」
 閻魔大王官がそう口を挟むのでありました。
「じゃあ、まあ、それならそう云う事で。この亡者様の場合、お土産品はなしだな」
 これは補佐官筆頭が横に立っている、恐らく物的因縁担当補佐官に云う言葉でありました。云われた補佐官は頷きながら、はい判りました、と返事して、何となく手持無沙汰そうな風情で、補佐官筆頭を見返して浅く一礼するのでありました。
「お土産は買わなんだとしても、どうじゃな、思い悩みの三日間を大いに楽しんだかいの?」
 閻魔大王官が話頭を転じて拙生に訊くのでありました。
「ええお蔭さまで。私は生まれ変わり地はとっくに決めておりましたから、何も思い悩む必要はありませんでしたからね。もう三日間、申しわけないくらい遊び呆けておりました」
「ああそうかいの。それは重畳じゃったのう」
 閻魔大王官は拙生の応えに呵々大笑して顎髭を手で梳くのでありました。「随分遠方まで、一泊旅行とかして観光に出たのかいの?」
「いや、一泊までして遠くの方へは行きませんでしたが、高尾山までは行きました」
「ああ、あそこは手頃な観光地じゃわい。ワシも時々孫を連れて登ったりするわいの。いや、孫に連れられて登ったりする、と云う方が正確な表現かのう」
 閻魔大王官はそう云ってまた顎髭を梳くのでありました。
(続)
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