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もうじやのたわむれ 262 [もうじやのたわむれ 9 創作]

 これも間抜けな一言でありますか。案の定、これにはカカアが反応するのでありました。
「何云ってんの。近い内、なんてとんでもないわ。断わっておくけど、あたしはそんなに早く、こっちに来るつもりなんかないからね。冗談じゃない」
「あ、そうですかい」
 拙生は無表情で頷くのでありました。「ま、それはそうとして、命日には俺の供養を宜しく頼むぜ。お盆やお彼岸の墓参りも、出来たらお願いします」
 拙生は合掌するのでありました。
「ま、気が向けばね」
 カカアは如何にも気乗りがしない風に云うのでありました。
「まあそう云わずに。それに墓参りに来た時は、花とか線香なんか別に供えなくても構わんけど、日本酒の良いヤツを墓石にかけてくれると実に有り難いなあ」
「そんな勿体ない! 良いお酒を石に吸わせてもつまらないじゃないの」
「そんな事云わずによお」
「ま、一応ご要望は承っておきますけど」
 こりゃどうも望み薄のようであります。そう云えば立川談志師匠の落語の枕で、酒飲みの男に、俺が死んだら毎日墓に酒をかけてくれと頼まれたヤツが、任せておけと請け負ったは良いものの、しかし何となく惜しいような気がしてきて、酒をかけてやっても良いが、その場合一辺俺の体を通ってからじゃダメか、と訊いたと云う噺がありましたなあ。それからこれは誰の噺の枕だったか忘れましたが、一年間の禁酒を誓った男が、どうしても酒が飲みたくて友達に相談したところ、そう云う時は一年の禁酒を二年に延ばせと助言されて、そんな無体なと抗弁すると、友達曰く、一年を二年に延ばして一日おきに飲めば良いじゃないか、なんと云うのもありましたか。いやまあ、こんな噺はどうでも良いですが。
「ところで、そんな愚図々々していないで、早く向うに戻った方が良いんじゃないか?」
 我が遅ればせの末期の頼みだと云うのに、カカアに気持ちの良い返事が貰えないものだから、拙生は少し無愛想にそう云うのでありました。
「何云ってんの。あたしが帰ろうとしてんのに、命日がどうのこうのなんて下らない事云い出して、足止めしたのは誰よ!」
「はいはい、それは済みませんでした。どうぞ娑婆の方に早々のお引き取りを」
 拙生は上にした掌の甲をひらひらとさせて見せるのでありました。
「全くもう、失礼しちゃうわね。その憎たらし態度、全然変わってないんだから。そんなんじゃあ、そっちでも誰にも可愛がられないわよ。大体あたしは、別に来たくてここに現れたんじゃないんだからね。態々来てやったって云うのに、何で最後までそんな無神経な対応されなきゃいけないの。どうせ、そう云う人だったのよね。そう云う人と一緒になったのがあたしの不幸の始まりだったのよね。亭主運が悪かったのよ。良おく判ったわ。あたし一人になって、これから大いに弾けまくって、今まで不運だった分を取り返さなきゃ」
 カカアはそう不平を云い散らかしながら、拙生の頭の中なら去るのでありました。カカアのぼやきの聞き納めでありますか。ま、もう聞けないとなると多少寂しくもありますが。
(続)
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