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もうじやのたわむれ 261 [もうじやのたわむれ 9 創作]

 まあ、訊けば審問官か記録官辺りが話してくれたのかも知れませんが、そんな事思いもよらなかったから訊かないで仕舞ったのであります。ま、これも明日の審理で、閻魔大王官に訊ねる事といたしましょう。後でメモしておかなければなりません。
 ええとメモするべき質問はもう一つ、拙生はこちらでも男に生まれ変わるのか、それとも娑婆の男女の別はこちらの世では引き継がれないのか、と云うのもありましたか。序でだからこちらの疑問もちゃんと書き留めておかなければ、竟忘れて仕舞いそうであります。
「あ、お坊さんの読経がもう直ぐお仕舞いになりそうだわ」
 カカアが云うのでありました。「あたしそろそろ、葬儀会場に戻らなくっちゃ」
「向うの葬式の進行状況が判るのか?」
「うん。頭の隅の方で、別画面で実況が流れているのよ」
「なんかデジタル放送のテレビみたいだな。ところでオマエがこっちに来ている間、向うのオマエの体はどうなっているんだ?」
「電池切れの人形みたいな感じで、動かない儘座っているのよ。まあ、突然連れあいを失った喪主だから、周りには上手い具合に、放心状態って感じに見えるんだと思うわ」
「ああ成程ね」
 拙生は頷くのでありました。痛々しくて声もかけられない、なんと云う感じでありましょうか。こちらに来ているとは誰も思わないと云う按配であります。
「兎に角、何でか知らないけど、こうして今一応、お別れの言葉を交わせてよかったわ」
 カカアが云うのでありました。
「そうだな。何となく俺もそこいら辺は気になっていたんだよ。オマエとの娑婆での夫婦関係が、拠無く尻切れ蜻蛉に中断したみたいでさ」
 まあそれは、心残りと云うよりは、綺麗にエンドマークを出さなかったための落ち着かなさ、とでも云うところでありましょうか。
「じゃあね。元気でね、あの世でも」
 それはしんみりとした調子でそう云ったのではなくて、何やら急ぎの用事があって気が急いているために、挨拶を早々に切り上げてサヨナラしようとしている、と云った風のぞんざいなカカアの云い様でありました。ま、湿っぽくなくて結構でありますが。
「ほんじゃ、オマエも元気でな。親類とか友達連中に宜しく云ってくれ」
 拙生もカラッとした感じで応えるのでありました。しかしすぐに、宜しく云ってくれ、と頼んでも、そんなもの云えるわけがないかと考えるのでありました。拙生とした事が、竟うっかり、何とも間抜けな事を云ったものであります。
「判った。そう伝えとく」
 拙生の不覚の一言に早速カカアがツッコむかと思ったのでありましたが、カカアは葬儀の進行の方が気になるらしくて、あっさりそう返すだけでありました。これは今度はこっちがツッコむ番でありますが、ここでそんな遣り取りをカカアとしていても始まらないから、拙生は無精してニコニコと笑って愛想をふり撒くだけにするのでありました。
「じゃあ、また近い内にな」
(続)
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