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もうじやのたわむれ 259 [もうじやのたわむれ 9 創作]

 こちらが抗えば抗う程、意地っ張りのカカアはもっとムキになって、荒唐無稽だろうが支離滅裂だろうが一向に構わず、益々感情的に拙生への抗弁を募らせるのでありましょう。これには娑婆時代に散々てこずったのでありました。でありますから、拙生は一呼吸置いて、ニンマリと親愛に満ちた笑いを目尻に湛えて見せるのでありました。
「ところで、もう逢えないとばかり思っていたのに、よく来れたなあここまで」
 拙生は話頭をひん曲げるのでありました。「幾ら俺の頭の中の思念とは云え、嬉しいよ」
 拙生が穏やかな調子でそう云うと、カカアは急に眼の中の険を消すのでありました。
「何であたしがこうしてここに出て来たのか、あたしにも判らないんだけどさ。・・・」
 カカアは拙生から目を離して、少しモジモジとするのでありました。
「ま、実際にこっちにオマエが来る事は出来ないんだから、せめて俺の亡者としての頭の中にだけでも現れてくれて、なんかホッとした心持ちになったよ。俺がこっちに来てどうしているか、本心ではオマエ、気を揉んでいたんだろうなあ屹度」
「まあ、ほんの少しはね。・・・」
 カカアはそう云って珍しくはにかむように笑むのでありました。
「俺がこっちに来るについては、結構突然だったからなあ」
「そうよ。鯖に中って最期を迎えるなんて思ってもいなかったわ」
「いや、当の俺がびっくりしたよ。まさか鯖に命を取られるとは。・・・」
 拙生がそう云った後、何となく先程までの棘々した雰囲気が沈静して、拙生とカカアの間にしめやかな空気が遥蕩うのでありました。
「まあ案外、元気にしているみたいじゃない?」
 カカアは柔らかい上目で拙生を見ながら云うのでありました。
「こっちに来たんだから、娑婆の人間に、元気、とか云われると何と云うか、ちょっと気後れみたいな心持ちがしてくるけどなあ」
「ああそうか」
 カカアはそう云って笑うのでありました。
「突然だったんで、オマエもその後、葬式の段取りとか大変だったろう?」
「うん、大変だったわ」
 カカアはやや目に憂いの色を添えて一度頷くのでありました。しかしどう大変だったのか、具体的なところは別に何も云わないのでありました。
 これは実は意外でありました。大変だったろうなと聞いたすぐ後に、それを取りかかりに大袈裟に微に入り細に入りあれこれ長々と、その大変だったところを洗い浚い云い募られるのではないかと危惧したのでありましたが、案外あっさりと繰り言を口の中に仕舞った儘にしているのでありました。一応、亡者への礼儀を弁えているからでありましょうか。
 まあ兎に角、拙生は話題を変える事にするのでありました、
「ところで、家の冷蔵庫に残して置いた鯖の片身はどうした?」
「良おく焼いて、供養のつもりであたしが食べたわ。あたしは別に何でもなかったわ」
「ふうん、それは何よりでした。オマエは前から、意外と勇気がある方だったからなあ」
(続)
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