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もうじやのたわむれ 258 [もうじやのたわむれ 9 創作]

「そっちに行っても、そんな戯けた事ばかり考えているなんて、浮かばれない人ね」
 カカアが怒気に満ちた目で拙生を睨んで、口元を嘲笑に歪めて云うのでありました。
「浮かばれるも浮かばれないも、こちらの世に生まれ変わる場合、娑婆の因果応報みたいな考え方は全く反映されないようだから、その発言は的外れと云う他ない」
 拙生は無表情の儘、娑婆に居た頃と同様に口応えするのでありました。
「ああそうですか。それは良かったわね!」
 カカアはそう吐き捨てて、そっぽを向くのでありました。拙生の葬儀の時はしおらし気に涙を流していたと云うのに、この憎々しい口の利き方はどう云う了見でありましょう。大体、亡者になった拙生の頭の中にまでしゃしゃり出てくる事自体、いけ図々しいにも程があると云うものであります。人としての弁えも何もないのでありましょうか。全くもう。
「何しに出て来た?」
 拙生は無愛想に訊くのでありました。
「そっちでどうしているのか心配だったからよ」
「うっそ、吐け!」
 拙生は思わず吹き出すのでありました。そんな言葉は娑婆でも絶えて久しく聞いた事はなかったのでありました。いけしゃあしゃあと、よくもそんな事が云えるものであります。
「何が嘘よ。あたしが心配してやっているのに、何よその態度!」
「はいはい、それは悪うございました」
 拙生は面倒なので娑婆の時と同様、すぐに謝るのでありました。ま、娑婆の時よりは少々揶揄する調子を強めにして云うのは、今はもう亡者となった大胆さからであります。
「何よ、その言い種!」
 カカアが突っかかってくるのでありました。「ちっとも変ってないのね、こっちに居る時と。そっちに行ったんだから、もう少し悟りの境地を開いているかって思っていたのに」
「いやどういたしまして。そんな、悟るとか悟らないとか云うような事は娑婆の方の勝手な言い種で、実際には、こっちではそんなもの一切問題にはならないんだぜ」
 拙生はこちらの世に生まれ変わる場合の実状を、少し説明してやるのでありました。
「そんな事あるもんですか、冗談じゃないわ!」
 カカアがムキになって反論するのでありました。
「そんな事あるもないも、実際そうなんだから仕方がない。亡者の俺が云うんだから、これ程間違いのない事はないと思うが」
「そんな事云って、何時もみたいにはぐらかすんでしょ」
「いやいや、はぐらかすとか云う問題じゃなくてさ。・・・」
 拙生はげんなりするのでありました。こちらに来た者は誰でも悟りの境地に至るなんと考えるのは、何の根拠もないカカアの勝手な思いこみ以上では決してないのであります。それに大体からして、拙生が悟ろうが悟るまいが、カカアには関係のない事であります。しかしそう云った事をカカアに縷々説明するのは無意味でしょうし、審問官でも記録官でも、閻魔大王官でもない拙生がそう云う解説をするのは無責任と云うものであります。
(続)
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