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もうじやのたわむれ 254 [もうじやのたわむれ 9 創作]

 拙生はそう決めると、立ち上がって寝間着に着換えるのでありました。それから腕時計を外してドレッサーの上に置き、その横にメモ帳とボールペンも置くのでありました。
 その後ベッド脇のサイドテーブル上のスタンドの灯りを点けてから、他の照明を落とすのでありました。窓に顔を近づけて眼下の三途の河の夜景を見ると、多分夜釣りの釣り船の明かりでありましょうか、黄色い燈火が所々に瞬いているのでありました。
 暗い中でその燈火を暫く眺めた後、カーテンを閉めて冷蔵庫から、拙生は少し迷った後、缶ビールではなくて緑色の五合瓶に入った日本酒を出して、ミニバーの上にあった大き目の碗も一緒に取って、ベッドの中に潜りこむのでありました。喉の渇きを癒すためではなくて、寝入るまでの手持無沙汰を慰めるためにチビチビやろうと云うのでありますから、冷えた発泡酒よりは、こっちの方が適しているかなと思い直した故でありました。
 それにしても楚々野淑恵さんでありますが、あのタイプが拙生の理想の女性となったのは、娑婆で拙生が幼稚園の頃から中学三年生の時まで隣家に住んでいた、三つ年上のお姉さんの面影が、その遠因であるのは明白でありましょう。幼友達であり、とても優しいお姉さんでありました。今思い出しても、胸に微電流が走るようにときめく程であります。
 そのお姉さんは拙生が幼稚園の頃に隣に引っ越してきたのでありました。お姉さんはもう小学生でもあり、幼稚園児の拙生には既に大人の範疇に入る人と云う認識でありました。
 体が余り丈夫ではなくて、背は高い方でありましたが痩せ気味の人でありました。中高の顔で目が大きくて睫毛が長くて、低くはないけれど小ぶりな鼻をしていて、笑うと両方の頬に深い笑窪が出来るのでありました。今思うとなかなかの美人でありましたなあ。
 お姉さんは体が弱かったので学校を屡休んでいたようで、転校生でもあったし、同級生の友達は少ないようでありました。そのためかどうか然とは判りませんが、お姉さんはよく隣家に住む拙生と遊んでくれるのでありました。お姉さんには二つ年上のお兄さんがいたのでありますが、このお兄さんの方と遊んだ記憶は拙生には殆どないのでありました。
 拙生が小学校二三年生の頃までは、お姉さんは拙生の実のお姉さんのような存在でありました。いや実のお姉さんだったら、実際には弟にあんなに優しくはしてくれないのでありましょう。お姉さんは拙生がチャンバラをやりたいと云えば、嫌な顔もせずにそれにつきあってくれて、ぎごちない仕草ながらちゃんと斬られ役を演じてくれるのでありましたし、拙生に欲しいプラモデルがあれば、少し離れた街の模型屋まで一緒についてきてくれて、それを作る時も、拙生の手に余るところは要領良く手伝ってくれるのでありました。
 拙生は一人っ子でありましたから、このお姉さんに遊んで貰える事がとても嬉しくて、まあ、便利でもあり、何かあるとすぐ頼りにしていたのでありました。お姉さんは拙生の云う事なら大抵は、優しく笑って聞いてくれるのでありました。
 拙生に対するお姉さんの優しさは、お姉さんが中学生になっても変わらないのでありました。尤もその頃になると、拙生の方にお姉さんに優しくされる事への忌憚のような感情が芽生えてきたり、男友達との間の体裁を気にし出したりするようになって、本意ではないのに無愛想にふる舞ってみたり、自分でもたじろぐくらいに突慳貪な口のきき方をしてみたりするのでありました。お姉さんの存在が、決して疎ましいわけではないと云うのに。
(続)
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