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もうじやのたわむれ 235 [もうじやのたわむれ 8 創作]

 とか何とかまわりくどく考えている内に『ホンダラ行進曲』の前奏が始まって仕舞うのでありました。拙生は慌ててテーブルの上のマイクを掴むと、徐に、一つ山越しゃ、なんと歌い出すのでありました。ホンダラホダラダホーイホイ、のところで上手く舌が回るかどうか不安でありましたが、何とか無難に切り抜けるのでありました。
 拙生の歌を聴く鬼達は初めて聞くその曲に、最初は何となくとまどっているようでありましたが、覚えやすくて調子の良い曲調に自然に手拍子が始まり、ホンダララホンダララ、ホンダラホダラダホーイホイの部分では、ぎごちないながら和昌しつつ笑い転げているのでありました。歌い終えると喝采と拍手の雨霰であります。
「すっごい面白い歌!」
 発羅津玄喜氏の彼女が手を叩いて喜ぶのでありました。拙生の隣のスカートの女性も口を掌で隠して、なかなかキュートに眉尻を下げて破顔しているのでありました。ここまで大ウケすると、拙生としても大いに気分が良いのでありました。
 場が一気に和むのでありました。しかし只一鬼、和まないヤツがいるのでありました。当然それは逸茂厳記氏であります。
 氏は時々触れる両横の女性の肩先から意識を外せないで、身を竦めて固まっているのでありました。眉間には皺が寄せられています。この、ちんちんにようやく毛が生え始めた頃の、娑婆の中学校の生徒のような居住まいは、見ていて痛ましいくらいであります。
「先輩、楽しんでます?」
 発羅津玄喜氏がウーロン茶を飲みながら訊くのでありました。
「おう、ちゃんと楽しんでるよ」
 逸茂厳記氏は少し舌を縺れさせながら返すのでありました。
「なんか、一鬼だけ面白くなさそうですね?」
 左横に座っているショートカットの小柄な女性が氏に話しかけるのでありました。
「いやそんなこたア、ありません。これで充分楽しいんです」
「でもさっきからずっと表情が硬い儘だし」
「大体がもの凄く硬いんです、私の表情は。先祖代々の血で、顔の皮膚が厚いんです」
 逸茂厳記氏はたじろぎながら、何やらわけの判らない説明をするのでありました。
「屹度横に座っているエミの事が気になって仕方がないのよ」
 これは発羅津玄喜氏の彼女が云う言葉でありました。
「エミと云うお名前でいらっしゃるので?」
 拙生は日本酒の猪口を口に運びながらその小柄な女性に訊くのでありました。
「はい。志柔エミと云います」
 女性が可愛らしい微笑を湛えて拙生に返すのでありました。
「笑い顔がとてもキュートで、ご容姿にピッタリの如何にも可憐なお名前ですね」
「有難うございます」
 女性は肩を竦めてやや下を向いて、恥ずかしそうに笑うのでありました。その風情は横の硬くなって座っている逸茂厳記氏と、何となく同じ居住まいに見えるのでありました。
(続)
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