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もうじやのたわむれ 231 [もうじやのたわむれ 8 創作]

 逸茂厳記氏がへの字に曲げた口で何となく不承々々と云った気持ちを表現しつつ、如何にも無愛想に発羅津玄喜氏に返すのでありました。
「若しお嫌なら、カラオケは止しにしてもいいのですが」
 拙生は一応、逸茂厳記氏に気を遣うような事を云ってみるのでありました。
「いや、亡者様のご意向は何が何でも尊重いたします。別に嫌でもありませんから、私は」
 逸茂厳記氏が硬い表情で拙生に恐縮のお辞儀をするのでありました。
「じゃあ、決定ですね」
 発羅津玄喜氏は拙生と逸茂厳記氏の顔を代わるがわる何度か見ながらそう念を押して、早速携帯電話を取り出して、恐らく氏の馴染みの店であろうカラオケ店に予約の電話を入れるのでありました。その電話が終わると今度は氏の彼女らしきに、女友達二三鬼連れてやってこいと云う指示と思われるメールを、素早い指遣いで打ち始めるのでありました。
 と云う事で我々は邪馬台銀座商店街アーケードに程近い映画・興行街を出て、夕暮れの街中を、徒歩で車を止めていた日比谷公園脇の駐車場まで戻るのでありました。考えたら閻魔庁の宿泊施設から日比谷公園や官庁街、それに寄席の六道辻亭までは車を使わずとも徒歩で行く事の出来る圏内ではありますが、態々車で移動するのは拙生の安全のための配慮でありましょうから、拙生はそれについて特段の文句は云わないのでありました。
 しかし考えたら車があると、却って煩わしいと云う事態も出来するのであります。特にこの場合のようにこれからカラオケに行こうと云う時には、どうせカラオケ店では酒を飲む事にもなりそうでありますから、当然ながら運転担当者は飲めないのであります。
「カラオケに行くんでしたら、・・・」
 拙生は逸茂厳記氏が車のドアを開ける前に提案するのでありました。「一旦閻魔庁まで戻って、この車を置いてから改めて出直す方が気楽ではないですか?」
「いや、そうはいきません。貴方様の街中での移動には、安全を考慮して車を使えと云う指示を、賀亜土係長から受けておりますから」
 逸茂厳記氏が生真面目な顔をして云うのでありました。
「そうすると、お酒が飲めないんじゃないですか、貴方達の内のどちらかは?」
「いや私達はどちらもカラオケ店ではお酒は飲みません。一応勤務中ですから」
「ああそうなんですか。お酒がないと何となく盛り上がらないんじゃないですか?」
「いや大丈夫です。我々はお酒が入らなくとも充分ノリノリで、カラオケで大騒ぎ出来ます。勿論、貴方様は遠慮なく存分に召しあがって頂いて結構です」
「ああそうですか。しかし貴方達が飲まないとなると、何となく私の方も気合いが入りませんなあ、しらふの人、いや鬼が相手では」
 拙生は情けなさそうな顔をして見せるのでありました。
「どうそご心配なく。後でやって来る女の子達が私達の分まで大いに飲むでしょうから。それに我々は飲まなくとも充分に愛想良くふる舞いますし、大いに場を盛り上げます。そう云う接客要領の講義も訓練も、閻魔庁の警護学校で受けておりますから」
「接客要領の講義とか訓練も受けられたので?」
(続)
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