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もうじやのたわむれ 221 [もうじやのたわむれ 8 創作]

 コーヒーの最後の一口を喉に流しこんでから、拙生は席を立つのでありました。この後は逸茂厳記氏と発羅津玄喜氏の警護担当両人と、いや両鬼とフロントの前で落ち逢う手筈であります。拙生はドア前に立つ白シャツに蝶ネクタイのウエイターに、有難うご座いました、の一礼で見送られてカフェテリア黄泉路を出るのでありました。
 フロント前ではもう、両鬼が待機しているのでありました。
「お早うございます」
 逸茂厳記氏がそう元気に云って拙生に一礼すると、発羅津玄喜氏もやや遅れて同じように、上体をピンと伸ばして腰を折るのでありました。
「お早うございます」
 拙生もそう返して腕時計を見るのでありました。待ちあわせ時間の午前十一時には、未だ十五分程あるのでありました。
「昨日はあの後、宴会の間で、飲めや歌えの大騒ぎをされたのでしょうか?」
 逸茂厳記氏が問うのでありました。
「いや、あの後部屋に戻って、酒を飲みながらテレビを見て過ごしましたよ」
「ああそうですか。それはまた随分大人しい夜でしたね」
「ええまあ、娑婆でも私はどちらかと云うと、夜は一人でぼんやり過ごすのが好きでしたから。偶に一人で寄席とか、軽音楽のコンサートなんかに行ったりする他は、カカアが自分の寝室に引き取ると、リビングのソファの上にだらしなく寝そべって、缶ビールとか日本酒のコップ片手に、本を読んだりテレビを見ながら何時も過ごしておりましたので」
「仕事のおつきあいなんかで、外で飲み会なんかもおありでしたでしょう?」
「ええ、それはありましたけど、どちらかと云うとそれはそんなに好きではありませんでしたね。本心は、仕方なく、と云った風で、ま、支障のない程度にこなしておりました」
「カラオケなんかはお好きではないのでしょうか?」
 これは発羅津玄喜氏が訊く言葉でありました。
「私は歌が下手くそですから。それにあんまり流行りの歌とか知りませんでしたしね」
「高踏派でいらしたのですね」
「いやいや、私が見るテレビと云ったら、ニュースや天気予報の他は、お笑い番組とか寄席中継とかと、それに昔のクレージーキャッツ映画のビデオ等でしたし、読む本も『日本都々逸選集』とか『古典落語百選』とか、『世界中の発禁本』とか云った類のものでしたから、とても唯美主義的な、或いは超俗的な嗜好の故と云うのではありませんでしたね」
「私はこう見えても、カラオケが好きなんですよ」
 発羅津玄喜氏は何故か少し照れながら云うのでありました。
「ほう、そうですか。物静かでいらっしゃるから、それは意外ですねえ」
「いやいや、実はこれでなかなか軽躁な性質でして」
 発羅津玄喜氏が頭を掻くのでありました。
「こいつは結構上手いんですよ、歌が」
 逸茂厳記氏が言葉を挟むのでありました。
(続)
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