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もうじやのたわむれ 213 [もうじやのたわむれ 8 創作]

 いやしかし亡者の儘だと、準娑婆省の諜報機関の連中に誘拐される危険が、何時もつき纏うのかも知れませんし。それに亡者の儘でいたいがために、こちらの世に霊として生まれ変わる事を拒否したならば、当然亡者としての優遇措置も、その時点から受けられなくなるのでありましょう。それどころか、不逞の輩として法的に罰せられるかも知れません。
 しかしそれなら誘拐されるに任せて準娑婆省にでも行けば、何かしら亡者として生きる(?)術があるのかも知れません。準娑婆省では娑婆にちょっかいを出して面白がる事も出来るようですし、それは何やら魅力的と云う以上に蠱惑的にも思われるのであります。
 けれども準娑婆省でなら亡者の儘でいられるとしても、亡者の儘でいるための不利益というものも屹度あるに違いありません。この仮の姿にしてもこれから先ずうっと、耐用保証期間が切れずに、ちゃんと動作してくれるかどうかも判らないのですし。
 この仮の姿を喪失して仕舞うような事態になれば、拙生はいったいこちらの世でどのような存在として生きて行く事になるのでありましょうか。ゆるぎない個体として存在する霊でもなく鬼でもなく、仮の姿ではあるにしろ、鬼や亡者間では識別が可能な姿を持つ亡者でもないと云う事は、つまりこちらの世に客観的に存在出来ないと云う事であります。それはつまり拙生に自己はないと云う事であります。自己がないなら他者もないのでありますから、結局拙生はこちらの世に存在していないと云う事になります。拙生は存在していない者として、こちらの世に存在しなければならないわけであります。それは何とややこしい存在でありましょうか。考えるだけで頭の中が春霞のようなものに覆われてきます。
 矢張り霊として生まれ変わるのが、一番シンプルな形態でありますかなあ。無精者の拙生には、亡者の利点に恋々とするよりは、ごく一般的な形態ですんなり霊になって仕舞う方が、余程安楽な道のようであります。娑婆でも、面倒臭いのはうんざりでしたから。
「では明日もまたご一緒させていただきますが、我々は明日の何時に、ちちらのロビーにお迎えに上がれば宜しいでしょうかな?」
 さて、ロビーのフロントの前で別れ際に、逸茂厳記氏が拙生に問うのでありました。
「そうですねえ、忙しい予定にふり回されるのはげんなりですから、明日はのんびり部屋で朝寝を楽しんで、それから朝食兼昼食をたらふく食って、その後ふらっと、と云った感じで寄席見物に出発としたいので、出来れば午前十一時くらいでお願いしたいものです」
 拙生は横着な注文を出すのでありました。
「判りました。では午前十一時にこのフロントの前でお待ちしております」
「勝手を云って申しわけないですなあ」
「いやいや、何を仰いますやら。我々はあくまで貴方様のご希望に沿う形で、護衛役の方を勤めさせていただくだけですから、どうぞご遠慮なく。では、明日午前十一時に」
 逸茂厳記氏はそう云って拙生に敬礼して見せるのでありました。発羅津玄喜氏もやや遅れて拙生に敬礼するのでありました。釣られて拙生も敬礼するのでありました。
「どうでしたでしょうか。今日の観光は満足されましたでしょうか?」
 元気コンビが立ち去ってから、フロント横の案内デスクに座っていたコンシェルジュが、拙生にそう声をかけるのでありました。
(続)
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