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もうじやのたわむれ 211 [もうじやのたわむれ 8 創作]

「おや、明日も私におつきあいいただけるので?」
 帰路に歩を踏み出しながら逸茂厳記氏に拙生は聞くのでありました。
「はい。貴方様の外出時の護衛は、我々元気コンビが最後までいたします」
 逸茂厳記氏はそう云って、歩きながらまたもお辞儀をするのでありました。
「それは心強いですな。なにせあの近くの住宅街の辺りで私は誘拐されかけたのですから、一人で寄席に行くのはちょいと不安でしたからね。昨日は腕の立つ合気道の達人の連れがありましたから事なきを得たのでしたが、私一人となるとからっきし情けない限りで」
「無粋な男二鬼の連れでは貴方様も興醒めでしょうが、ま、ご辛抱下さい」
「いやいや何を仰いますやら。頼もしい限りです」
「ならば宜しいのですが。・・・」
 拙生は娑婆にいた頃は大体、寄席には一人で行くのが慣わしでありましたので、実のところ元気コンビと同道するのは、少しばかり煩わしいような心持ちがするのでありました。しかし拙生が前の時のように鵜方三四郎氏と一緒ではなくて全くの一人でいるところを、昨日逃げた準娑婆省の諜報機関に所属すると思しき小柄な男が、若し何処かで目撃したとするならば、これはしめたと昨日同様の凶行に及ぶのは必定であります。依って元気コンビと連れだって寄席見物に繰り出すのも、これは致し方がないと考え直すのでありました。
「貴方は寄席とかに行かれた事がおありですか?」
 拙生は横を歩く逸茂厳記氏に訊くのでありました。
「いや、ありません。落語とか演芸はテレビでもあんまり見ない方で」
「ああそうですか」
「しかし良い機会ですかな、後学のためにもそう云う場所へ一度行ってみるのは」
「発羅津さんはどうです?」
 拙生はやや後ろを寡黙に歩く、発羅津玄喜氏の方をふり返りながら訊くのでありました。
「あ、いや、私も行った事がありません」
 発羅津玄喜氏が思いもかけず拙生に急に言葉をふられてたじろいで、ぎごちなく笑いながら応えるのでありました。「でも私の親父が漫才とかが好きでよく行っておりました」
「お父様のお伴をされた事はないので?」
「寄席について行った事はありません。でも、親父の影響で、小さい頃から漫才やコントは好きでした。中学生の頃、昼の三時から毎週テレビでやっている腰元新喜劇を見るために、土曜日のクラブ活動はサボっていたくらいですから」
「腰元新喜劇?」
「ええ。腰元興行と云う漫才師や落語家や喜劇俳優を多く抱える興行会社が、自前の定席での興行の最後にやる喜劇です。私の通っていた中学校の中になかなかなコアなファンがごく少数いましてね、月曜日ともなるとそういった連中の間で、土曜日に放映された新喜劇の話しで持ち切りになりました。私もそう云ったファンの一人でした」
「娑婆の吉本新喜劇みたいなものでしょうかね?」
「いや、私は娑婆の方の新喜劇は良くは知りませんが」
(続)
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