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もうじやのたわむれ 210 [もうじやのたわむれ 7 創作]

「さて、そろそろ下山して帰路につくとしましょうか」
 逸茂厳記氏が四方の眺望に見蕩れている拙生に云うのでありました。
「そう云えばぼちぼち夕方の気配が漂い出しましたね」
「これから帰れば、未だかろうじて日のある内に宿泊施設に帰り着くと思いますよ」
「しかしまあ、頼もしい護衛が二人、いや二鬼ついていてくださるわけですから、帰りが少々遅くなってすっかり暗くなっても大丈夫でしょうがね」
 拙生はそう笑いながら云って逸茂厳記氏と、その横で一歩下がって立っている発羅津玄喜氏の顔を見るのでありました。この発羅津玄喜氏の方は今までずうっと、全くの無愛想と云うのではないのですが、逸茂厳記氏の後ろで控えめに、拙生の冗談に愛想笑うくらいで、殆どその発する声を聞かないのでありました。逸茂厳記氏が職場の先輩で、後輩たる発羅津玄喜氏は万事、先輩よりも出しゃばる事を憚ってそうしているのかも知れないと、拙生は勝手に当りをつけていたのでありました。何となく二人の、いや二鬼の呼吸と云うものが、まるで娑婆の大学の体育会の先輩後輩の関係のように見えるのでありましたから。
「まあ、我々はどんなに遅くなろうと、何が起ころうとも貴方様を守りますが、しかし何も起こらないに越した事はないですからね。転ばぬ先の杖と云う諺もありますし」
 逸茂厳記氏が恐縮のお辞儀をしながらそう返すのでありました。
「まあ、私としてもお二人に、いやお二鬼に、無用なご迷惑をおかけするのは本意ではありませんから、ではこの辺でこの高尾山を引き上げて、宿泊施設の方に戻りますかな」
「若しもこの後も、是非とも、例えば夜の繁華街とか、畝火の白檮原タワーから夜景を見てみたい等とお考えのようでしたら、それは貴方様のご希望の方が何より優先されますので、我々はどんなに夜更けようとも、粛々と貴方様の散策にお伴させていただきますが」
「いやまあ、今日のところはこれで引き上げるとしましょう。宿泊施設に帰って、またカフェテリアで夕食をたらふく食うと云うのも一興ですしね」
「若し我々にお気を遣われているのなら、それは全く無用ですよ」
 逸茂厳記氏が恐縮の表情を色濃くしながら云うのでありました。
「いやいや、私としても今日は充分に邪馬台郡観光地散策を堪能しましたかし、別にお二人、いやお二鬼に気を遣って、帰ると云っているのではありません」
「私の言葉を、ご帰還を急かす言葉とお受け取りになったとしたら、何やら申しわけないような気がいたします。私にはそんな事をお願いする気も、権限もないのですから」
「そう云うのではありませんよ。私は明日もう一日、思い悩み時間が残っていますから、今日はこれにて切り上げるのに何の不足も本当にないのです」
「なら良いのですが。・・・」
 逸茂厳記氏はそう云って拙生に一礼するのでありました。「ところで、と云う事は、明日もお散歩に出られるお積りで?」
「ええ、その積りです。明日は邪馬台銀座商店街の近くの、映画・興行街にある寄席にでもいってみようかと考えております」
「ああそうですか。因みに、そう云う事でしたら明日も我々が護衛をさせていただきます」
(続)
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