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もうじやのたわむれ 208 [もうじやのたわむれ 7 創作]

「その、郡霊的人気映画、と云うのは娑婆で云えば、国民的人気映画、ですね?」
「正解であります!」
 逸茂厳記氏がピースサインをしながら、至って元気に応えるのでありました。
「屹度お正月とか夏休みに公開される映画なのでしょうね?」
「そうです。それと五月のゴールデンウィークに」
「こちらにも五月に、ゴールデンウィークなんというのがあるのですか?」
「ええ。五月の三日から五日までの三連休の事ですが、その前の四月二十九日も祝日でして、その年のカレンダーによっては、五月二日を有給休暇にすると、丸々一週間連休になると云う年もありますね。元々は映画業界が、その連休中に大勢客を集めようと云う魂胆で云い出したのですよ。しかし今は皆、映画よりも旅行とかに行きますかな、連休中は」
 この辺りも娑婆の日本と同じ様相であります。
 そんなこんなで、団子屋と仏具屋の目立つ、くねった参道沿いに並ぶ店々をぶらぶら冷やかして、その後帝釈天にお参りするのでありました。帝釈天の回廊を巡りながら観る欄間の透かし彫りは、娑婆の帝釈天に勝るとも劣らない見事なものでありました。
 帝釈天を出て裏手の方に少し歩くと、三途の川の小高い土手に突き当たって、土手の上は自転車の通行も可能な遊歩道となっているのでありました。土手の上から三途の川の方を眺めれば、手前には広い草原の河川敷が広がっていて、野球場とかサッカー場やテニスコート、それに特に用途の決まっていないような広場が設えてあるのでありました。
 そこでは子供の霊が夫々の競技に興じていたり、若いカップルと思しき男女の霊が水際の草叢に寄り添って座り、川面を見ながらいちゃいちゃしていたり、草原にシートを広げて憩う親子連れの姿なんぞが見られるのでありました。この時間に子供が野球やサッカーをしていたり、親子連れがのんびり寛いでいるのでありますから、今日は恐らくこちらでは土曜日か日曜日に当たるのであろうと、拙生は頭の隅でちらと考えるのでありましたが、なんとなく面倒だったので、それを逸茂厳記氏に態々確認する事はしないのでありました。
 柴又帝釈天の後は、本日の最後の訪問地たる高尾山を訪れるのでありました。高尾山に着いた頃にはもう、腕時計を見ると午後の二時を大分回っているのでありました。
 広い駐車場に車を入れて、啓蒙線と云う私鉄の高尾山口と云う名前の駅から、川沿いに延びる小道を少し歩くと、山上に向かうケーブルカーの駅に出るのでありました。ケーブルカー駅の周りには、観光地によくあるお土産屋や食い物屋が集まっているのでありました。なにやら矢鱈に蕎麦の看板が目立つのは、これも娑婆の高尾山と同じであります。
「歩いて山上まで登るのは時間がかかりますから、ケーブルカーで向かいましょう」
 逸茂厳記氏がそう云って、券売機で二枚の切符を買うのでありました。これは当然、逸茂厳記氏と発羅津玄喜氏の二鬼分で、質量のない拙生には切符は必要ないのであります。審理室で閻魔大王官に、亡者は何の遠慮も後ろめたさもなく、只で大きな顔をして公共の乗り物を利用出来ると聞いていたのでありますが、実際に只乗りするとなると何やら大いに得をしたような了見になる半面、切符を買わない儘改札を抜ける時にややドキドキして仕舞うのは、これは全く、拙生の娑婆時代以来の小胆の然らしめるところでありましょう。
(続)
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