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もうじやのたわむれ 202 [もうじやのたわむれ 7 創作]

 拙生は居住まいを正して、小さな咳払いを一つするのでありました。「柴又帝釈天の次に書いてある、高尾山、と云うのは何でしょうか?」
「それは、この辺から半日コースでハイキングに行ける手頃な山です。邪馬台郡の繁華な地区に隣接した、交通至便の自然豊かな山と云う事で、本来はレストランとか料理屋とかホテルなんかのランクをつける、民間で出している『見知らむ』と云う権威ある案内本の中で、近年見事に、確か景観部門か何かで三つ星指定を受けた処です」
「娑婆の八王子にある高尾山と同じような感じでしょうかね?」
「いや、私は娑婆の方に在ると云う高尾山はよくは存じませんが」
「同じ、高尾山、と云う名前ですよね。だから何やら関連があるのかと思いましてね」
「さあ、山の名前の由来までは存じ上げません」
 コンシェルジュは無表情にそう云いながら、浅くお辞儀をして見せるのでありました。
「娑婆では高尾山は東京都の西端にある山ですから、東端にある柴又帝釈天の次に訪問するには、距離的に離れ過ぎていると云う感覚ですが?」
「いや、娑婆ではそうかも知れませんが、こちらでは柴又帝釈天の北隣にある山ですから」
「ああそうですか」
 拙生はそれ以上の言葉を喉の奥にグッと飲みこむのでありました。娑婆での知見を節度なくこちらに当て嵌めないのが、我々亡者としての在るべき姿の筈でありました。・・・
「山中深くに高尾山薬王院有喜寺と云うお寺が建っていて、これは一万二千年以上前に開山されたと云われていまして、閻魔庁のあるこの辺きっての名刹となります。元々修験道の山でしてね、天狗がマスコットになっておりますよ」
 娑婆の高尾山とすっかり同じであります。
「さらに西に行くと景信山とか陣馬山とか、それに相模湖なんと云う湖がありますか?」
 拙生は一応訊いてみるのでありました。
「おや、よくご存知で。しかしそれは西ではなくて三途の川沿いに北方に連なっております。高尾山はロープウェイとかリフトで中腹まで行けますが、その先に足を延ばすとなると丸一日のハイキングコースとなりますから、今日の処は高尾山だけされた方が無難です」
「ああ、成程ね」
「と、ここまでで本日の散歩コースは終了となります」
「畝火の白檮原タワー、深草(下町情緒)、お茶のお湯、葛飾柴又、高尾山と云うコースですね。なんか娑婆の感覚でも一日コースとしてはこれで一杯々々でしょうなあ」
「邪馬台銀座商店街アーケードの郡道一号線側入り口傍から、この辺の観光名所を巡る、ハトに豆鉄砲バス、と云う定期観光バスも出ておりますが、生憎それは亡者様はご利用いただけません。住霊とかこの辺に観光旅行に来た他所の霊専用になっておりまして」
「つまり<亡様歓迎>ではないのですね、その豆鉄砲バスは?」
「そう云う事でございます」
「そうすると、私は路線バスやら電車を乗り継いで観光する事になるのですね?」
「本来はそうですが、貴方様の本日の観光に関しては別の手立てになっております」
(続)
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