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もうじやのたわむれ 187 [もうじやのたわむれ 7 創作]

 部屋に戻ると拙生は施設案内のパンフレットと、観光絵地図を化粧台の上に置くのでありました。先ず部屋の鍵と、腕時計を外してそれをその上に置き、ボールペンと可愛いイラストの描いてあるメモ帳と携帯電話も、上着のポケットから取り出してその横に置くのでありました。そうしてミニバーの下の小さな冷蔵庫から缶ビールを一本取り出してから、部屋の奥の窓前のソファーに座って、上着を脱いで一度大きな伸びをするのでありました。
 そう云えば審問室で審問官と記録官相手に日本酒の話しはしたのでありましたが、こちらのビールなんと云うものは、いったいどう云った具合のものなのでありましょうや。興味津々に缶の飲み口を開けて、拙生は先ず少量を口に含むのでありました。それは全く娑婆の居酒屋なんかで飲み慣れた、日本国産のビールの味なのでありました。拙生は安心するようながっかりするような、微妙な心持ちが少しするのでありました。
 ビールを片手に立ち上がって化粧台の傍まで行って、拙生はそこに先程置いた観光絵地図を取ると、またソファーに戻って座るのでありました。絵地図を開いて、さて明日はどこへ行こうかと思案するのでありました。
 今日は邪馬台銀座商店街に脇目もふらず直行したものだから、その途中にある郡会議事堂とか郡長官邸とか官庁街は素通りしたのでありましたが、コンシェルジュが云っていたように、そこに働く霊達の身なりやら態度やら表情やらを仔細に観察してみると、邪馬台郡の大凡の政治の質とかを感得出来るのかも知れません。しかし邪馬台銀座商店街の賑わいやらそこを行き交う霊達の様子を観れば、間接的にしろ、邪馬台郡の行政レベルも推し測る事は出来るでありましょう。寧ろ官庁街よりはこう云った市井の盛り場なんかの方が、邪馬台郡の行政実状をはっきり表しているのではないかとも思われるのであります。
 どだい郡会議事堂とか郡長官邸とか行政庁とか云った建物は、如何にも厳めしそうな拵えになっているもので、どんなに荘厳だろうとそれがその儘、政治や行政の厳しさやら緻密さやらを映しているとは限らないでありましょう。政治家なんと云うものは、見てくればかりを気にするものだし、官僚なんと云うものは、逆に見てくれに現れない部分で、自分達の都合の良い事をこそこそと企むものであると云う傾向は、彼岸此岸を問わない普遍的なものなのでありましょうから、矢張り邪馬台郡の実状を観るには、繁華街やら住宅街やら時に陋巷やらの市井の様子を観察するに如かず、であろうと思われるのであります。
 と云う事は明日も、邪馬台銀座商店街近辺へと散歩に出向く事になりそうでありますが、そうなると今日遭遇したような危険が待ちうけているかも知れないと云う事であります。明日は鵜方氏の同行を願えないわけでありますから、拙生だけではとてもあのような難事には対処出来ないでありましょう。かと云って危険を避けるために、終日建物内に留まって、この部屋と下のロビーだけで過ごすのも如何にも能がないし、それでは折角の旅行気分が台なしと云うものであります。はてさて、ここはどうしたものでありましょうや。
 まあ、明日になったらコンシェルジュに相談してみるしかないでありましょう。それに昼間の人気、いや霊気の多い場所なら、準娑婆省の諜報機関の連中もそんなに滅多矢鱈な事は出来ないでありましょうし、夜になる前にここへ帰ってくれば、なんとか大丈夫なのでありましょう。コンシェルジュの口ぶりも確かそんな風でありましたし。
(続)
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