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もうじやのたわむれ 184 [もうじやのたわむれ 7 創作]

 拙生も鵜方氏と同様に、自嘲的に笑うのでありました。
「貴方も邪馬台郡に生まれ変わられて、私もそこに一足先に、まあ、二日程先に生まれていて、となると、新しくこちらで霊になった後も、どこかでお逢いする機会があるかも知れませんよね。ひょっとしたら住んでいる家が近所で、学校の同級生になるかも知れませんね。まあ、その時はお互い、全くの見ず知らず同士になっているのでしょうが」
 鵜方氏はそう云った後、偶々近くを通りかかった宿泊施設の従業員と思しき身なりの女性の鬼を、手を上げて呼び止めるのでありました。呼び止められた女性の鬼は、鵜方氏の方へ体を向けて丁寧なお辞儀をするのでありました。
「何かご用でしょうか?」
「ああ、ここにコーヒーを二つお願い出来ますか?」
 鵜方氏が女性にコーヒーを注文するのでありました。
「かしこまりました」
 女性は深々と礼をして、噴水の向こうに去るのでありました。
「ここのロビーでは飲み物のサービスもあるのですか?」
 拙生が鵜方氏に訊くのでありました。
「ええ。娑婆のホテルと同様ですよ。お金はかかりませんが。しかも二十四時間」
「ところで、豆アレルギーは出ませんか?」
「ええ、大丈夫のようです。今に至るまでどこも痒くなりませんから」
 鵜方氏が自分の右手の肘の曲がり目辺りに、赤い発疹が出ていないかどうかを点検しながら云うのでありました。
「こちらの世では、そう云う厄介なアレルギーのない体に生まれ変わりたいものですなあ」
「いやいや、同感です」
 先程の女性が、香ばしい湯気が縁から仄かに零れるコーヒーカップを二つ、銀盆に載せて運んで来て、傍らに置いてある小さなテーブルの上にそれを静かに置くのでありました。丁寧なお辞儀と愛想の笑みを残して女性が去ると、テーブルに近い方に座っている鵜方氏が、一つのコーヒーカップを受け皿ごと取って拙生に渡してくれるのでありました。
「ああこれは恐れ入ります」
 拙生は受け取ると、そう云って軽く頭を下げるのでありました。
「今日は何杯コーヒーを飲みましたかな?」
 鵜方氏は一口飲んでから、続けるのでありました。「邪馬台銀座商店街の喫茶店と、それに警察署と、それからこのコーヒーで、都合三杯でしょうかな」
「私は審問室で審問官と記録官と話している時にもおよばれしましたから、もっと余計に飲んだ事になりますなあ」
「こんなに飲んだのは、娑婆で断って以来ですから、もう十年以上も前になりますよ」
「私もそのくらいになりますかな」
「好きなものを好きな時に好きなだけ嗜めると云うのは、実に嬉しいものですなあ」
「いやいやご同感、ご同感」
(続)
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