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もうじやのたわむれ 183 [もうじやのたわむれ 7 創作]

「どうもお疲れ様でした。私がお誘いしたばかりに、とんだ散歩につきあわせて仕舞ったようで、大いに恐縮しております」
 拙生は鵜方氏にお辞儀しながら云うのでありました。
「いやいや、ある意味で大変面白い散歩でした。久しぶりに体も動かせて爽快でしたし」
 鵜方氏は笑いながら掌を横にふって見せるのでありました。
 フロントに鵜方氏の腕時計と携帯電話を返却して、拙生の方はもう後二日必要であろうから借りっ放しで結構と云う事で、我々は夫々の部屋のキーを受け取った後、すぐには部屋に引き取らずに、ロビーの噴水の傍のソファーに座って暫く話しをするのでありました。
「私も今、この邪馬台郡に生まれ変わろうかなと云う心持ちになりかけておりますよ」
 鵜方氏が云うのでありました。
「ほう、あんな危険を経験しても、ですか?」
「まあ、あれは偶々邪馬台郡に閻魔庁があるために、未だ生まれ変わらない我々亡者が一杯うろうろしているが故に起こった事件であって、ここの住霊になって仕舞えば、つまりもう、あの手の危険はないと云う事でしょうからね。・・・」
 そう云った後、鵜方氏が少し考えるような仕草をするのでありました。「いや、しかし考えてみたら、住霊も拉致されるなんと云う可能性はないのでしょうかね?」
「それはあるかも知れませんよね。新たに霊に生まれ変わったとしても、法律とか仕来たりとか風習とか云う点は別にしても、準娑婆省に住むと云う営為それ自体は可能なのでしょうからね。それで霊口増加のために準娑婆省の諜報機関が、あんな無体な事をやっているのでしょうし。そうなると生まれ変わった後だって、誘拐される危険はあるわけだ」
「そうですよね。その辺はどうなっているのでしょうね?」
「明日の審理で、閻魔大王官にでも聞いてみては如何でしょう?」
「そうですね。そうしますよ。しかしそう云う危険があるとしても、私は多分、邪馬台郡に生まれ変わりたいと、明日の審理で閻魔大王官に告げるでしょうね」
 鵜方氏はそう云って自得するように頷くのでありました。
「どう云う按配で貴方の目に、邪馬台国郡の街がそんなに魅力的に映ったので?」
「邪馬台銀座商店街の風情なんかは、娑婆の日本に確かに近いと思われますので、なんか親近感が湧きました。まあ、親近感と云うよりは、安心感と云うべきか」
「新たに生まれ変わって仕舞えば、その今の亡者の状態での親近感なり安心感なんと云うものは、あんまり意味がないのではないでしょうか?」
「まあそうでしょうし、そう云う風に閻魔大王官にも云われましたが、しかし矢張り私としては邪馬台郡が一番性にあっているようで。ま、この性にあうと云うのも、今の亡者としての感覚で、生まれ変わったらそんな亡者時代の感覚は消えて仕舞うのでしょうがね」
「それでもその今の、亡者としての感覚を大事にしたいと?」
「ええ。不合理は重々承知しておりますがね」
 鵜方氏はそう云って自嘲するように笑うのでありました。
「まあそう云う私も、その不合理は重々承知の感覚を後生大事に懐に抱えておりますがね」
(続)
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