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もうじやのたわむれ 177 [もうじやのたわむれ 6 創作]

 これは鵜方氏が云うのでありました。「もう明日には、私の方は閻魔大王官に、生まれ変わり地を申告しなければならないのです」
「ああ、そう云う事情がおありでしたのですね」
 刑事は調書にその事を記すのでありました。「それで、日暮れた後の散歩は危険だと云う認識は明確におありでしたでしょうかな?」
「ええ、それは承知しておりましたが、まあ、そんなに大事なかろうと、云ってみれば旅行者の気楽さみたいなものから、住宅街の方へと足を向けたのです」
「お前さんはこの亡者さんのそう云う行動を、止めはしなかったのか?」
 これは、まだ出入口の横で律義に気をつけの姿勢をして立っている、南派出所の警官に向かって刑事が訊く言葉でありました。
「まあ、街に出てこられた亡者さんの意向は、出来るだけ尊重せよと云う上からのお達しもありましたから、是が非でも止めようとは考えませんでした。今から思えば、あの時危険である事を強調して引き止めなかったのは、本官の怠慢だったかも知れません。」
 警官はそう云ってまた敬礼して見せるのでありました。
「まあ、本来はそうすべきところだが、今回はこの亡者さん達が散歩を続行したお蔭で、連中を三鬼も逮捕出来たのだし、ま、お前さんの責任は敢えて問わない事としようか。しかし今回のように事態が上手く回るとは限らないのだから、今後は気をつけてくれよ」
 刑事が訓戒を垂れるのでありました。
「はい。以後慎重に対処するように致します」
 警官がもう一度刑事に敬礼をするのでありました。
「で、あの三鬼と格闘された折りに紛失された物があったり、服のどこかに瑕疵を受けたなんと云う事はなかったでしょうかね?」
「それはありませんでしたね」
「貴方の方も?」
 刑事が拙生の方を向いて訊くのでありました。
「私はこの鵜方さんの活躍をただ見ていただけですから、そう云う事は全くありません」
「成程ね」
 刑事はまた調書にボールペンを走らせるのでありました。「連中はどう云う感じで、あの公園横の道端に現れて、どんな風に貴方達に近づいてきたのですかな?」
「まあ、よく娑婆にいる与太公が因縁をつけてくる遣り口ですね」
「お若けえの、お待ちなせえ、みたいな感じですか?」
「いやいや、連中よりも我々の方が見た目からして年嵩なのは明白ですから、そう云う科白は連中としても吐き辛かったでしょうなあ」
「では、煙管かなんか銜えて、卒爾ながら火を御貸し願いたい、とかなんとか?」
 刑事は上野の鈴本演芸場で聞いた、金原亭馬生師匠の『花見の仇打ち』と云う落語に出てくるような科白を吐いてみせるのでありました。
「いやいや、そうではありません」
(続)
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