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もうじやのたわむれ 176 [もうじやのたわむれ 6 創作]

 刑事は今度はボールペンを回さないで、すぐに筆記出来るように持ち直すのだけなのでありました。それから固めた拳を口元に持っていって、咳払いを一度するのでありました。
「いやまあ、その辺の省家的判断の予想は置くとして、調書の方に戻りますが、貴方達は視察散歩に何時頃出かけられたのでしょうかね?」
「そうですねえ、昼の三時頃でしたかねえ」
 鵜方氏が自分の腕時計に目を落としながら云うのでありました。
「それで邪馬台銀座商店街に着いたのは?」
「三時半頃でしょうか。宿泊施設を出て、そんなに急いで歩いたわけではありませんから」
「そいで以って邪馬台銀座商店街南派出所の前を通られたのが?」
「もう六時半を回っておりましたか」
「すると三時間も、邪馬台銀座商店街をうろうろされていたのですかね?」
 刑事が鵜方氏を見て、その後でゆっくり拙生の方にも目を向けるものだから、今度は拙生がその質問に応えるのでありました。
「それは、喫茶店に入って、うだうだと娑婆の喫茶店関連の事とか、思い出話しなんかに現を抜かしたりしていたり、アーケード街から脇に離れて、寄席とか映画館とかストリップ小屋のある、ちょうど娑婆の浅草六区のような街区とか、その近辺のごちゃごちゃした辺りなんかを、好奇心に任せてうろついていたので、そんな時間になって仕舞ったのです」
「ああ、あの辺の脇道は錯綜しておりますから、時間もかかったと云う事でしょうかね?」
「そうです。アーケードに出ようとしたら出られなかったり、それで道の分岐点まで引き返して別の道に入りこんだりしました。まあ、その脇道散歩は結構面白かったですがね」
「ひょっとしたらその辺りで、あの連中に貴方達は目をつけられたのかも知れませんね」
 刑事がそう云いながら、自分の前に置いてあるコーヒーを一口飲むのでありました。「そいで以って、南派出所前に出て、そこの警官と言葉を交わされたのですね?」
 刑事はボールペンの先で、出入口ドア横に、律義に気をつけの姿勢をして立っている警官の方を指し示すのでありました。指された警官はどう云うつもりか、やや腰をかがめて我々の方にこれも律義に敬礼をして見せるのでありました。
「そうです。それでこのお巡りさんは親切にも派出所の電話番号を、我々の宿泊施設で借りた携帯電話に登録してくれたりしました。ねえ?」
 この、ねえ? で拙生はまた警官の方を見るのでありましたが、その拙生の仕草に警官はまたもや敬礼をするのでありました。
「その通りであります。時間も概ね六時半頃で間違いありません」
 そう云った後に警官は、刑事に向かって深めに腰を折ってまた敬礼するのでありました。
「ふむふむ、成程ね」
 刑事はそう得心しながら調書にボールペンを走らせるのでありました。「で、もう暗くなっているのに、宿泊施設の戻らずに住宅街の方に向かわれたのはどう云った了見で?」
「私の方が、もうその日しか視察散歩が出来ないので、暗くなってはいましたが、是非とも住宅街の方にも足を運ぼうと提案したのです」
(続)
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