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もうじやのたわむれ 169 [もうじやのたわむれ 6 創作]

「そんな体験がおありならば、今夜の散歩なんと云うものは、ここいら辺で切り上げと云う事にいたしましょうかな?」
 拙生はそう提案するのでありました。
「いや、トラウマと云っても、もう瘡蓋が剥がれる程度になっておりまして、多少過敏にはなりますが、しかし全く戦慄いていると云うわけではありません。それに今夜を逃すと私は邪馬台郡の住宅街を見学出来ませんので、出来れば続行を希望いたします」
「ああそうですか。それなら良いのですが」
「しかしあの体験も、屹度準娑婆省の連中の私に対して行ったちょっかいなのでしょうね」
 鵜方氏がすこし冷めた語調で云うのでありました。
「そうなりますかな」
 拙生は腕組みして頷くのでありました。
「審問官だったか記録官だったか、それとも閻魔大王官だったかにその辺の事情を聴いて、ふうんそう云う事だったのかと、私は今にして漸くあの事の絡繰りが判りましたよ」
「要は準娑婆省の誰かが、貴方にそんな悪戯を仕かけて面白がったと云う事ですな」
「そうですね。準娑婆省の連中も、そんな下らない真似をして何が面白いのでしょうね」
 鵜方氏の口調には些か悔しそうな響きが混ざっているのでありました。
「ま、連中の心底は判りませんが、準娑婆省は聞くところに依ると娑婆の天候とか、娑婆で起きる天災なんかも司っているようなので、自分達が娑婆を恣意にコントロール出来て、それに娑婆の人間が右往左往するのが何やら無性に嬉しいのでしょうね。娑婆で起きる大きな出来事は準娑婆省政府が、それから貴方の蒙られた悪戯のような小さな事象は、ちょっかい免許を持った、一般の連中が仕かけているのでしょうが、そんな人の悪い真似、いや違った、霊の悪い真似、若しくは鬼の悪い真似をして面白がる連中には、実に全く困ったものですよね。娑婆にもそんな人間が結構大勢いたような気がしますから、我々元人間だったのが、準娑婆省を悪く云うのは身の程知らずで烏滸がましいのかも知れませんが」
「ま、残念ながらそうなりますが」
 鵜方氏は自嘲的な笑みを浮かべるのでありましたが、次の瞬間、顔からその笑みを素早く剥ぎ取るのでありました。拙生がその表情の急変にたじろぐ間もなく、鵜方氏が再度の公園の不穏な気配を睨みつけて、荒げた鋭い声を発するのでありました。
「誰だ、そこにいるのは!」
 鵜方氏のその声に反応するように、公園の木々がさざめくのでありました。
「こんな遅くに、こんな寂しい道をフラフラ歩いていると危ないぜ」
 木立のさざめきの中から、暗闇に紛れるような黒っぽい服装の小柄な男が、我々をからかうような口調でそう云いつつ現れ、その後ろに続いて同じ黒尽めの、これは如何にも大柄な、その体躯だけで人を、いや亡者を畏れさせるに充分な巨漢が三人、いや三霊、いやひょっとしたら三鬼、出現するのでありました。暗中でその顔は聢とは判らないのでありましたが、何やら凶悪そうな風情だけは緊々とこちらに伝わってくるのでありました。
「お前等、何の用だ?」
(続)
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