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もうじやのたわむれ 165 [もうじやのたわむれ 6 創作]

 鵜方氏が云うのでありました。矢張りつきあって貰うのは止して正解でありました。
「それでは、この辻もうろうろと賑わいの雰囲気の中を散歩して、その後、路地をあちらこちら適当にうねうねと、邪馬台銀座商店街のアーケードに戻る目算で歩いてみますかな。アーケードに戻ったら、ちょっとその先にある住宅地と云うのも見てみましょうかな」
 拙生は提案するのでありました。
「若し何でしたら、寄席見物におつきあいさせて貰いますよ」
「いやいや、それでは屹度夜遅くなって仕舞いますから、今日は止しておきましょう」
 拙生はお辞儀しながら、鵜方氏の申し出に丁重な遠慮の意を表すのでありました。「私は明日もありますから、また一人ででも来る事が出来ますし」
 と云う事で、我々は歩行を再開するのでありました。
 アーケードに戻る積りの路地散歩でありましたが、この路地が思いの外難物で、くねくねと曲がりくねって色んな路地に無規則に繋がっているものだから、途中で方角を失ったり、通り抜けが出来なくて戻ったりと、大いに時間を食うのでありました。まあ、繁華街の裏路地ですから、ちょっと色っぽいヤバそうな店もあり、そこのポン引きと思しき若い衆が道行く霊に密やかに声をかける光景もあり、間口一間程、奥行きも大してなさそうな古めかしい、うらびれた風情の小さな飲み屋やバーもあり、一体何を商っているのかよく判らない怪しげな小店が数件軒を連ねていたりと、なかなか面白い散歩ではありましたが。
 漸くの事でアーケード街の大通りに戻ってみると、商店街の多くの店はもうシャッターを下ろそうとしているのでありました。意外に早仕舞いのようであります。まあ、一昔前の娑婆でも、デパートなんかは大体夕方六時頃にはもう閉店していたのでありましたし、他の店なんかもそれに倣っていたのでありましたかな。後は飲み屋街やら裏路地の方に賑わいが移るのであります。ま、つまりその時分の娑婆と同じと云った風でありましょうか。
 人通りも殆ど絶えて、閉じられたシャッターの連なりに街燈の薄明かりが寂しく反射するアーケード街は、先程までの賑わいは何処へやら、急に深閑とするのでありました。夕方には宿泊施設に戻る心積もりなのでありましたが、もうすっかり夜の気配であります。
「なんかとっぷりと暮れて仕舞いましたね」
 拙生が鵜方氏に云うのでありました。「こうなると住宅街の方に回ってみるのは、今日の処は止しにした方が無難ですかな」
「いやいや、しかし折角ですから、ほんのちょいとくらいは覗いてみませんか?」
 思いの外、鵜方氏が意欲的なところを見せるのでありました。
「しかし、危険ではありませんかね?」
「まあ、そうかも知れませんが、でも私は住宅街も見てみたくなりました」
 ほんの暇つぶしのおつきあいと云っていた鵜方氏が、意外に住宅街の視察に拘るのであります。これはひょっとしたら鵜方氏は、この邪馬台郡に生まれ変わろうかなと、ちらと思い始めたのかも知れません。明日にはもう、閻魔大王官に生まれ変わり地を告げなければならない鵜方氏としては、この散歩を逃したら、自分の目で邪馬台郡のあれこれを視察する事が叶わなくなるのでありますから、それで拘っていると云うわけでありましょうか。
(続)
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