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もうじやのたわむれ 159 [もうじやのたわむれ 6 創作]

「この商店街から離れると、また違った邪馬台郡の面貌が見られるかも知れませんがね」
 鵜方氏もアーケードのあちらこちらに視線を投げながら云うのでありました。
 絵地図に記してある小さな文字の解説によると、メインストリートたるアーケードの商店街は全長四キロメートルに及ぶ長大なショッピング・ロードで、ブラブラ歩けば優に片道一時間を要すると云う事であります。このアーケード商店街から幾本もの枝分かれした脇道沿いにも様々な物を商う店が連なり、その脇道からもまたその岐路が出ていて、そこにも店舗がズラリと並び、といった感じで、まるで紙の上に溢した液体がじわじわと広がっていくように、広大な、面、としての繁華街が形成されている、のだそうであります。
 拙生と鵜方氏は先ずアーケードの尽きるまでをゆっくり歩いて、ゆるゆる揺蕩う賑わいの波に、質量のないこの身を任せてみるのでありました。
「規模はここより劣りますが、中野のサンモールを思い出しますなあ」
 鵜方氏がそう云って懐かし気な表情をするのでありました。
「もう一度歩いてみて、今度は適当な脇道に入ってみましょうかな」
 拙生が提案するのでありました。「脇道の入り口に映画・興行街とか飲み屋街とか、楽器屋街とかスポーツ用品街なんと云う案内板がありましたから、邪馬台郡の風俗視察と云う意味で、その映画・興行街というのに入ってみたいと私は思うのですが」
「ああそうですか。結構です。お伴致します」
 鵜方氏が同意するのでありました。
 またもや視察散歩を再開して、今度はデパートやら大きな洋品店やら、家電量販店やらにもちらと立ち寄り、映画・興行街と云う案内板のすぐ手前の、喫茶店カトレア、と云う看板が掲げてある建物の前で、我々はふと立ち止まるのでありました。
「喫茶店カトレア、だそうですよ」
 拙生は親指でその看板を指差しながら云うのでありました。
「先程宿泊施設の噴水の前で、奇しくも新宿にあった喫茶店カトレアの話しをしたのが、我々の出逢いでしたなあ、そう云えば。」
「ちょっと立ち寄って、コーヒーでも飲みながら休んでいきますか?」
「そうですね、折角ですからね」
「ちょいとお待ちくださいよ」
 拙生はそう云ってスモークガラスの入り口ドアの横に掲げてある、大きな古めかしい木の看板を見つめるのでありました。「ああ、大丈夫です<亡様歓迎>と書いてあります」
「なんですか、その<亡様歓迎>と云うのは?」
「閻魔大王官にお聞きになりませんでしたか?」
「いや、特には」
「この文字が看板に書いてある店は、我々亡者も利用出来る店なのだそうです。こう云う店のオーナーとか従業員の中には、元閻魔庁関係者だった鬼とかがいて、一般の霊では見えない我々の姿が見えるから我々も無難に利用出来る、と云う按配なのだそうです」
「ふうん、そういう事なんですか」
(続)
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