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もうじやのたわむれ 158 [もうじやのたわむれ 6 創作]

「そうですね、三十五年くらいやった事になりますかな。しかし私は、年数は長いですが、ちゃらんぽらんと通っていた口で、大した腕前には結局なれませんでしたけれどね」
「いやいや、ご謙遜を」
「いやいやいや、本当のところです」
「いやいやいやいや、・・・」
 またもや期せずして、この度は鵜方氏といやいやの応酬を始める事になりそうな気配でありましたが、ここでは応酬者が二人だけで、適当なところでツッコミを入れてくれる役回りの第三者がいない事を慮って、拙生は改まった咳払いを一つして、言葉の流れに逆竿を入れるのでありました。「・・・まあ、兎も角、娑婆では養神館合気道を長年嗜まれていたと云う事ですね。そう云うずうっと続けられる好事があるのは、実に結構な事ですな」
「もう今となっては、意欲はあれど続ける能わざる趣味、となって仕舞いましたがね」
 鵜方氏は寂しそうに云うのでありました。根っから合気道が好きなのでありましょう。
 官庁街を通り越して郡道一号線を暫く歩いていると、急に人通りが、いや霊通りが賑やかになって、左に折れる大きなアーケードの商店街の入り口に出るのでありました。道の傍らに「此れより南邪馬台銀座」と云う石の道票が立っているのでありました。
「ここが邪馬台銀座商店街ですね。官庁街は話しにかまけて通り過ぎて仕舞いましたが」
 拙生がそう云いながら立ち止まると、鵜方氏も足の動きを止めるのでありました。
「そうですね。いやいや、商店街と云う言葉から想像していた以上に繁華なアーケード街ですなあ。道の広さも中野のサンモールの倍くらいありますか」
「まあ、邪馬台郡一の繁華街と云う触れこみでしたからねえ。アーケードの両側に並んでいる色んな店舗も、間口が大きくて大層立派な感じです。そこいら辺の、ちょいと買い物に行く駅前商店街みたいな感じではまったくありませんなあ。アーケードがないなら、娑婆の歩行者天国時の銀座通りみたいな感じですよね。いやいや、これは恐れ入りました」
 拙生は腕組みして感心するのでありました。
「しかし邪馬台銀座商店街と云うのは、如何にもチープな名前だと思っておりましたが、これは確かに、娑婆の銀座と遜色ないくらいの規模と賑わいですかな」
 鵜方氏も頷きながら腕組みをするのでありました。
「アーケードになっている分、こちらの方が強い日差しや雨風なんかも凌げて、快適なショッピング街と云えるかも知れませんね。車にも気を遣わなくて済むし」
 拙生と鵜方氏は感心顔でアーケード街に足を踏み入れるのでありました。
「閻魔大王官から聞いたところに依ると、邪馬台郡は産業が今一つ振興していないし、住霊数に対する就職口が未だ不足していて、種類も多くないと云う事でしたので、少々うらびれた辺境の街の盛り場を想像していたのですが、どうしてどうして、この商店街の店舗の構えやら行き交う霊の賑わいやらを見ると、住霊の所得も購買力も充分ありそうな感じですよね。第一ここにこれだけの店舗があるのだから、それだけでもかなりの雇用が生み出せるでしょうし。まあ、閻魔大王官が云っていたのは、郡全体の実態なのでしょうが」
 拙生はキョロキョロしながら、横を歩く鵜方氏に云うのでありました。
(続)
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