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もうじやのたわむれ 156 [もうじやのたわむれ 6 創作]

 この建物の、上に行く時には厳しいチェックがあるけれど、下に降りるのは自由だとコンシェルジュが云っていたように、その入国審査のようなボックスを通過する時には、一旦停止を命じられ、色々聞かれる事もないのでありました。ボックスの中に座った入国審査官のような仁も、ただ拙生に目礼をするだけでありました。金属探知機のようなものもあるのでありましたが、施設の外へ向かう場合はその中を潜る必要もないのでありました。
 入国審査みたいなボックスと金属探知機のようなものを通り過ぎて暫く歩くと、娑婆の警察官のような服装をした、伸び縮み警棒を手にした、屈強な体格のガードマンが両脇に立った自動ドアがあるのでありました。ガードマンに敬礼されながらその自動ドアもフリーパスと云う感じで出ると、これも国際線空港なんかによくある、免税店やらお土産屋さんやら食べ物屋さんやら小物を売る店なんかが並ぶ、商業フロアに出るのでありました。ドアのこちら側にもガードマンが複数、厳めしい顔をして屹立しているのでありました。
 拙生は補佐官筆頭に渡された宿泊施設案内のパンフレットを取り出して、その中に載っている建物の平面見取り図を見るのでありました。
「このフロアにレストランとかバーとか喫茶店なんかがあるのですな。食事をしたくなったりコーヒーを飲みたくなったら、ここに来れば良いわけですかね」
 拙生が云うと鵜方氏は手を横にふるのでありました。
「いやいや、ここまで降りてくるとその後上に戻るのが面倒になりますよ。さっきの入国審査みたいな処を通らなくてはなりませんし、チェックが厳しいでしょうからね」
「ああそうですね。食事の度に一々それは面倒ですね」
「上の我々の宿泊施設のロビーにも、食事をしたり酒を飲んだり出来る一画がありますから、私はそこで済ませておりました。ルームサービスなんかもありますし」
「ああ、上にもそう云う店舗があるのですね?」
「そうです。一般の住霊とかと一緒だと何かと気を遣う事があるから、宿泊施設の中にある店舗を使う方が面倒がないと、私を案内した補佐官から予め聞いておりましたので」
「ああ成程ね。しかしここで飲食をしても良いわけですよね、面倒を厭わなければ」
「それはそうでしょうけど」
 そんな事を話しつつ、拙生と鵜方氏はお土産物屋をちらとひやかしたりしながら、一階に降りるエスカレーターの方へと歩を進めるのでありました。拙生はこの商業フロアの賑わいを見ながら、ふと『二階ぞめき』と云う落語なんぞを思い出しているのでありました。
 上りも下りも三基づつあるエスカレーターで一階に降りると、そこにはバッグとか小物、それに洋服なんかのブランド・ショップと思しき店舗が並んでいるのでありました。もうすっかり、娑婆の大都市にある大規模ホテルみたいな雰囲気であります。
 一般の住霊には拙生等が見えないし、我々には個体としての質量がないのでありましたから、エスカレーターに乗る時も混雑した一階のフロアを歩く時も、他霊とぶつかったりする事は全くないのでありました。我々も霊達も大袈裟に身をかわす必要もないから、どんな乱れた歩行をしても何の問題もないのでありました。子供の霊が走ってきても、一切の抵抗もなく我々の体を通り抜けて、我々の背後にその儘走り去って行くのでありました。
(続)
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