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もうじやのたわむれ 153 [もうじやのたわむれ 6 創作]

「でしたら、繁華街の夜の賑わいも見てみたいですね」
 拙生は呑気そうにそう云うのでありました。
「まあ、それも結構ではありますが、・・・」
 コンシェルジュは絵地図から目を離すと、拙生を遠慮がちながら見据えるのでありました。その目にはやや険しい色が浮かんでいるのでありました。
「夜の繁華街には我々亡者がうろつくには、何か不都合な事情でもあるのでしょうか?」
 拙生はコンシェルジュの瞳の険しさを見つめながら訊くのでありました。
「時々、貴方様と同じ世情視察目的で街に繰り出された亡者の方が、その儘こちらに戻られずに行方不明となる事件が、稀に発生しておるのです」
「行方不明、ですか」
「そうです。警察当局の話しでは誘拐ではないかとの事です」
「我々亡者を誘拐するのですか?」
「そう云う事です。生まれ変わりを妨害するために」
 コンシェルジュはその必要があるのかないのか、ここで俄かに声をひそめるのでありました。「誘拐と云ってもそれでこの閻魔庁に身代金等を要求するのが目的ではなくて、ある処に拉致するのが目当てなのです。大がかりな省家的組織が関与していると云う話しです」
「それはひょっとしたら準娑婆省の関与、と云う事でしょうか?」
 拙生も小声になるのでありました。
「お察しの通りです。向こうの秘密諜報機関が、こちらでそう云う凶行を行っているらしいのです。準娑婆省の霊口を増やすために」
「拉致された亡者は準娑婆省に連れて行かれるのですか?」
「そうです。三途の川に時々不審船が浮かんでいるのが目撃されておりますから、それが恐らく向こうの工作船で、拉致した亡者を乗せて運んでいるのだろうという事です」
「拉致された亡者は、こちらの世ではもう極楽にも地獄にも行けなくなるのですね?」
「そうなります。消息知れずの儘、生涯を準娑婆省で送る事になりますかな」
「それは冗談じゃありませんねえ。どう冗談じゃないのかは、なんとなくよく判りませんが。・・・しかしところで、こう云う風に声を潜めてこの話しをしなければならないと云うのは、この閻魔庁の宿泊施設の中にも、その準娑婆省の諜報員が従業員とか亡者を装って、秘かに潜りこんでいるなんと云う可能性があるから、なのでしょうかね?」
「いや、それはありません」
 コンシェルジュは急に声の音量を普通に戻すのでありました。「ここから下に降りるのは自由ですが、下からここへ上がって来るには厳重なチェックが設けてありますから、先ず、準娑婆省の諜報員がこのフロアに侵入するのは無理でしょうね。特にこの宿泊施設は誘拐事件があって以来、閻魔庁の面目にかけてチェックを厳しくしておりますので」
「ではどうして、急に声をひそめられたので?」
「その方がこう云う話をする時には、雰囲気的に如何にもそれっぽいかなと思いましてね」
 コンシェルジュは愛想笑いしながら、あっさりそう云うのでありました。
(続)
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