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もうじやのたわむれ 152 [もうじやのたわむれ 6 創作]

「繁華街の賑わいとかその辺は是非見学してみたいですなあ」
 拙生はそう云って左の方へ動いて行く万年筆のペン先を追うのでありました。
「一般の省霊が大勢繰り出しているでしょうから、その顔つきとか服装とか行動なんかを観察すると、地獄省邪馬台郡の省霊の暮らしぶりとか気分とかが、大凡掴めるかも知れませんね。夕方になって会社の退け時頃は、繁華街は大いに賑わいますよ。この繁華街は郡道一号線から南に向かって延びる、一本道のアーケード街となっております」
 コンシェルジュは地図上の郡道一号線から、南に向かって直角に線を曲げるのでありました。「アーケードの両側には色んな洋服屋やら食べ物屋やら喫茶店やら、デパートの入り口やらがずらっと並んでおります。郡道一号線側の入り口にはアーケード名である、邪馬台銀座、と云う石造りの道標が立っておりますからすぐに判りますよ。勿論邪馬台郡一の繁華街ですので、このアーケードの一本道だけに色んな店やらが集中しているのではなくて、アーケードから、これも色んな店が立ち並ぶ枝道が幾本も延びております。バーやキャバレーや居酒屋なんかが集まっている街区、映画館とか劇場とか寄席が集まっている興行街なんかは、この枝分かれした道の先にあります。この枝道は結構複雑に曲がったり他の道と交差したりしておりますから、街に不案内な方はお迷いになるかも知れませんね」
「六道の辻亭、とか云う名前の寄席も、その興行街にあるのですね?」
 拙生は絵地図から目を上げて、コンシェルジュにそう訊くのでありました。
「そうです。よくご存知で」
「審理室の前にお邪魔していた審問室でそのような名前を聞きました。私としてはそこも是非立ち寄りたいと思っているのです」
「落語や漫才なんかがお好きで?」
「ええ、娑婆では寄席にはよく通ったものです」
「ああそうですか」
 コンシェルジュは愛想笑うのでありました。「・・・で、ここをブラブラ散歩して頂きますと、アーケードの尽きた辺りから省霊の住む民家がぼつぼつ現れ始めます。この先はまあ、富裕でもなく貧困でもない、ごくごく一般的な省霊の住む住宅地となりますかな。郡営の団地があったり建売の一軒家が集まっていたり、アパートとかマンションなんかがその中に現れたりで、ここで一般的な省霊の暮らし向きなんかを観察されるとよいでしょうかな」
「そう云う生活の匂いのある処を歩くのも、なかなか味わいがありますよね」
 拙生はそう云ってコンシェルジュの持つ万年筆のペン先に、また視線を落とすのでありました。しかし万年筆は、その後は何処にも足を向けないのでありました。
「この辺までの世情視察で、もう日の暮れ時になるでしょうから、今日の処は散歩を切り上げてこちらに引き返された方が良いかも知れません」
 コンシェルジュは万年筆のペン先を絵地図の上から離すのでありました。
「こちらの宿泊施設は門限があるのでしょうか?」
 拙生は訊くのでありました。
「いや、門限はありません。昼夜に関係なく常時フロントには係りがおります」
(続)
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