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もうじやのたわむれ 150 [もうじやのたわむれ 5 創作]

 コンシェルジュは椅子から立ち上がって拙生と男を迎えるのでありました。拙生等よりは若そうな風貌の男でボタンダウンの白いシャツに赤い地に紺と白の細い斜め縞の入ったネクタイと、三つボタンの段返り中一つがけに紺のブレサーを着ているのでありました。ブレザーの胸には真ん中に『閻』と書いてあるエンブレムがついているのでありました。
「これから街を散歩してこようと思うのですが、こちらの地理には全く不案内なもので、少々散歩コースのアドバイスを頂けたらと思いましてね」
 拙生はデスクの前にある椅子に腰かけながら云うのでありました。拙生の横の椅子に連れの男がやや遅れて着席するのを待ってから、昔のアイビー風ファッションのコンシェルジュはネクタイの位置を気にしながら自分も腰を下ろすのでありました。
「どのような目的での散歩でいらっしゃいますか?」
「ちょろっと世情視察と云うか、まあ、そう云った感じです」
「生まれ変わり地を決定されるに際して、その前にちょいとばかりこちらの世の空気を吸ってみようか、なんと云う事でしょうかね?」
「半分は気儘に知らない街を旅行する気分ですが、ま、後の半分がそう云った魂胆です」
「ああそうですか。それでは繁華街とかオフィス街とか霊のよく行く公園とか、それに典型的なこの辺の霊が住む住宅地とか、そんな処のブラブラ歩きをご希望で?」
「そうですね。世情視察の方ではそんな処と、後は旅行気分の方で、ちょっとした名所旧跡なんぞがあれば、そこも訪ねてみたいものですな」
「判りました。半日コースで、効率的にそう云った処を周れるルートを考えてみましょう」
 コンシェルジュはデスクの下から地図を取り出すのでありました。それは補佐官筆頭から貰った『閻魔庁周辺散策ガイドマップ』と云う絵地図と同じものでありました。
「ああ、それなら私も持っていますよ」
 拙生はポケットから絵地図ガイドを取り出すのでありました。
「ああそうですか。ではその地図の上で検討いたしましょう」
 コンシェルジュは自分が出した方の地図をデスクの下に仕舞って、拙生が持っていた方を受け取ると、天地を拙生等の目線にあわせてデスクの上に広げるのでありました。A半裁程度の大きさの、方位や距離、それに道路などの形状が引き写しに描写された正縮尺の地図ではなくて、よく娑婆の観光地のお土産屋さんなんかで売っている、カラフルなイラストが多用された、デフォルメや歪みを厭わない観光案内地図であります。二人連れの帽子を被った若い女の子が旅行カバンをぶら下げて、満面の笑顔で、まるで踊っているように歩行している絵なんぞも、タイトルの下辺りに目立つように描いてあるのでありました。
 良い歳をした大の男が二人して、この絵地図を頼りにあちらこちらと歩きまわる図なんと云うのは、何やら胡散臭い感じがするんじゃないかしらと、拙生は少々気後れなんぞがするのでありましたが、しかし住霊には拙生等の姿は見えないのだから、そんな体裁を気にする必要もないかとも考えるのでありました。旅の恥はかき棄て、とも云いますし。
「地図上に描きこみをしても宜しいでしょうか?」
 コンシェルジュはそう云って、上着の内ポケットから万年筆を取り出すのでありました。
(続)
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