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もうじやのたわむれ 141 [もうじやのたわむれ 5 創作]

「ただで飲み食いして、買い物も出来るのですか?」
「そうじゃな。帰りに支払伝票にサインしておいて貰えば、後でその店の主人が閻魔庁に代金を取りに来るような仕組みになっておる」
「なんか至れり尽くせりですね」
「せっかくこちらの世に来て貰ったのじゃからな。閻魔庁のほんのおもてなしじゃよ」
 閻魔大王官はそう云って、顎髭を扱いてハハハと笑うのでありました。
「それでは、私としましてはその三日後にまたここへ参って、その時に正式に私の意向を閻魔大王官さんに伝えればよいのですね?」
「そうじゃわいの」
「ではお勧めもありますので、私はその三日間、旅行者の気分で閻魔庁近辺をブラブラ散歩しながら、邪馬台郡がどのような処かをちらほら見学させて貰いますよ」
「おう、そうしなされ、そうしなされ」
 閻魔大王官は顎髭を指に巻きつけて弄びながら云うのでありました。
「何やらその、幽霊のようなものとして邪馬台郡を自由に散歩出来る事が、今から楽しみになってきました。それに話しは違いますが、さっき地蔵局のお役人さんと話している時にちょっと考えていたのですが、私の今のこの体てえものがどう云う具合になっているのかも、おぼろげには判りましたからね。まあ、判ったとは云うものの、バイオロジー的なものとして存在しているのではなくて、識別上の便宜として今のこの体があると云う点を、透明人間とか幽霊と云うレトリックによって感覚的に理解しただけなのですが、兎に角、そんなある意味で好都合な体を手に入れた事も、なんとなく愉快な心持ちがしてきました」
 拙生は呑気にそう云うのでありました。
「さて、お手前がそう云う心持ちになったところで、審理は一応これにてお開きと云う事にしようかのう。それで宜しいかいの?」
「ええ結構です。もう地獄省の邪馬台郡に生まれ変わるつもりに大方なっておりますから、審理自体はこれでお仕舞いでも何の異存もありません」
「ああそうかえ。ま、三日間を、大いに楽しんでおくれ。しかし一応注意しておくが、幾らお手前の姿が一般の住霊には見えんからと云って、つまらん悪さをしたり悪戯をしかけたりして、後で邪馬台郡の中に妙な噂なんぞが広まるような事はせんでおいて貰いたいものじゃ。浮かれて羽目を外して、準娑婆省の連中のような了見を起こして貰っては、ワシとしては大いに困るぞい。お手前の姿がちゃんと見える元閻魔庁の職員も世間には居ると云う事も、一応心の片隅に留めておいて貰いたいものじゃわい。まあ、お手前の事じゃから間違いはなかろうとは思うのじゃが、お手前の品性に照らして、宜しゅうやっておくれ」
「心得ました。ご心配なく」
 拙生はそう愛想よく即座に請けあうのでありましたが、あんまり即座過ぎて、如何にも軽々しい返答に聞こえて仕舞わなかったか、少し心配になるのでありました。
「ほんじゃあ、ゲストルームの方に案内いたそうかいな」
 閻魔大王官はそう云って、後ろの補佐官筆頭の方に体を捩るのでありました。
(続)
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