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もうじやのたわむれ 139 [もうじやのたわむれ 5 創作]

「そんな事が出来るのですか?」
「ほいな。亡者は正式に自分の希望生まれ変わり地をワシに申告する前に、充分思い悩む時間が要るじゃろうと配慮されていてな、三日間、閻魔庁の宿泊施設のゲストルームで、自由な時間を過ごしても良い事になっておる。そこで窓の外の景色なんぞを眺めながら、何処にしようかしらと色々思い悩むわけじゃよ。勿論、部屋に閉じ籠もっておるだけじゃのうて、外出も自由じゃ。ちなみに云うておくが、ゲストルームの宿泊料は無料じゃよ」
「ああそうですか。街に出る事も出来るので?」
「そう云うこっちゃ。外をうろつくのも可能じゃ、だからその際、まあ、この閻魔庁の近くに限定されるが、お手前自身で、邪馬台郡の現実の様子を見る事が出来るわけじゃ」
「ほう、それは好都合ですね」
 拙生は少し瞠目して口の端に笑いを作るのでありました。「ゲストルーム宿泊中は、まったくフリータイムという事で宜しいのですか?」
「そうじゃ。さっさと希望生まれ変わり地を決めておいて、三日間リラックスした旅行気分で、呑気に街の中や郊外の景勝地を散策する亡者も結構おるわいの」
「しかし街中の散歩とか景勝地の散策とは云っても、私は今殆ど一文無しで、今の所持金は確か、三途の河の渡し賃として棺桶に入れて貰った五円だけなのですから、移動する交通費もありませんし、何処か邪馬台郡の有名な寺社とか博物館を見学するとしても、その拝観料も入館料も払えません。それどころか、これでは三日間の食事も儘なりませんけれど、その辺はどうなるのでしょうかね。結局、部屋に籠り切りで過ごすしかないですかね」
 拙生は、今度は力なく笑って見せるのでありました。
「いやいや、全く案ずる事はないぞい。基本的には今のお手前は食事の必要はないのじゃ。そのお手前の体はあくまで、新しくこちらに生まれるまでの便宜的な仮の姿であって、ちゃんとした霊体ではないのじゃからな。生命維持のための食事等は摂らんで構わんのじゃ。まあ一応個体として識別出来なければ我々も困るし、お手前自身も自分の胴体や手足がちゃんと見えとらんと、なんとなく落ち着かないじゃろうしのう。そう云うところで、仮のものとしてお手前の娑婆時代の姿が一時的に、もわっと復元されておるわけじゃよ」
「もわっと、ですか。・・・」
「そうじゃ。もわっと、じゃ。だから街の中に出ても、一般の霊達にはお手前の姿は見えんのじゃ。見えんのじゃから、バスや電車に乗るのも好き勝手じゃ。何の遠慮も要らん」
「透明人間みたいなものですかね、娑婆の感じで云うと」
「ま、そんなもんじゃな」
「しかし無賃乗車とか云うと、なんか後ろめたい気がしますね」
 拙生はなんとなく気後れして、そう云って笑って見せるのでありました。
「いやいや、そんな事はありゃあせんぞ。亡者に保証された権利じゃ。邪馬台郡の条例にもちゃんと謳われておる。大威張りで無賃乗車して構わんぞい」
「しかし混んだ電車とかは避けた方が宜しいですかね?」
「いやいや、構わん。お手前の体は或る意味で質量がないのじゃから、場所も取らん」
(続)
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