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もうじやのたわむれ 133 [もうじやのたわむれ 5 創作]

「朝起きる時に、寝屁をされるのが習慣なのですか?」
 首を元に戻して、拙生がどうでも良い事を補佐官筆頭に質問するのでありました。
「ええ。その後かけ布団をちょいと持ち上げて、布団の中に揺蕩う気配の香しさに暫し陶然として、それからよっこらしょと起き上がるのが、私の朝一番の儀式みたいなものです」
 補佐官筆頭も天井の一点から拙生の顔の方に視線を向けて云うのでありました。
「習慣と云う程ではないにしろ、どう云うものかワシも時々それをやるのじゃが。・・・そうすると、横で寝ているお主の奥方に怒られるじゃろうに」
 閻魔大王官も視線を正面に戻して、心配するのでありました。
「いや、ウチのは長年のつきあいから、その私の朝の儀式を知っておりますので、とうに起き出して寝室から退去しております」
「成程。周到な奥方の心がけじゃな。その点ウチのは早起きをせんから怒る」
「そりゃあ、お怒りにもなるでしょう」
 拙生が閻魔大王官の奥さんの肩を持つのでありました。
「うん。つまりワシを、愚妻が臭いと腐す」
 閻魔大王官が韻を踏みながら嘆くのでありました。それを聴いた補佐官筆頭が厳かにやや前に進み出て、律義そうにお辞儀をした後に、閻魔大王官の頭の冠を手に持っていた巻物で遠慮がちに叩いて、今の洒落にツッコミを入れるのでありました。
「ま、寝屁の事は良いとして」
 閻魔大王官が冠を押さえて咳払いを一つしてから続けるのでありました。「朝目覚めて、尻から屁が出たのと一緒に口から句が出たと云う事じゃが、起きしなに、お主何か夢のようなものを見んじゃったかいの、起きしなの夢は、鮮明に覚えておるものじゃが?」
「ええ、それがですね、前夜の大酒さん達との、居酒屋での宴席の夢なんぞを見たのです。大酒さんが日本酒を猪口でちびちびやりながら、私に、とっておきの句を進ぜようとか仰って、耳元で早口に幾つかの句を何度も何度も、繰り返し吐かれるのです。実はその句が、私がこの巻物に万年筆で書き留めた句と、文言がほぼ一致する句なのです。夢の中で大酒さんが吐かれた句ではありますものの、しかし夢はあくまでも私のオツムの中で生成されたものなのでありますから、夢でのシチュエーションとしては大酒さんの口を借りたにしろ、しかしそれは私のオツムの中で閃いた句であると云えるのであります、あくまでも」
「ふうん、成程ね」
 閻魔大王官が顎髭を扱くのでありました。「お主多分、大酒のヤツに弄ばれたのじゃ」
「弄ばれた?」
 補佐官筆頭が目をみはるのでありました。
「そうじゃ。お主の夢は実は夢ではなくてじゃな、現実の事じゃ。大酒が秘かに、寝ているお主に近づいて、お主がその巻物に書き留めたのと同じ句を、何遍も何遍も繰り返しお主の耳元で囁いて、お主の頭の中に刷りこんだのじゃ。屹度そうに違いないわい」
「つまり大酒さんが、私が寝ている間に、宿の部屋に忍びこんでいらしたと云うのですか?」
 補佐官筆頭の声が驚嘆の余り裏返るのでありました。
(続)
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