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もうじやのたわむれ 132 [もうじやのたわむれ 5 創作]

「で、その後に、初雪とか朝顔とか云うお題が出たのですね?」
 拙生が訊くのでありました。
「そうです、先ずは初雪でした」
「ちなみに最初はその季語でどのような句を詠まれたのでしょうか?」
「初雪や、方々の屋根が白くなる、と云うやつです」
 それも『雑俳』で、御隠居から、初雪や、二の字二の字の下駄の跡、とか、初雪や、犬の足跡梅の花、とか云う句を紹介されて、見た目その儘を詠めと諭された八つぁんが吐いた句でありましたかな。まあ、誰でも考えつきそうな句であります。そう云えば三代目金馬師匠の『雑俳』では、初雪や、胡瓜転んで河童の屁、なんと云う妙な句もありましたか。
「当然それも再度捻り直して、と云う事になったのでしょうね?」
「その通りです」
「こうして聴いておると、お主には俳句の才能なんと云うものは、全くと云って良い程ないようじゃな。素人のワシが聴いても、実に以って下らない句ばかりじゃ」
 閻魔大王官がそう云って、補佐官筆頭においでおいでをして、その近づけられた補佐官筆頭の頭の冠を巻物で軽く叩くのでありました。
「面目ない次第であります」
 補佐官筆頭は打たれた冠に両手を添えて、閻魔大王官にお辞儀をするのでありました。
「まあ、お主の俳句の才能は置くとして、その宴席の後、どうなったのかえ?」
「ええ、大岩さんにもう一軒行こうと誘われたのですが、俳句好きの私としましては、宴席で大酒さんから頂いたお題が気になって気になって、その後もう一捻り捻り直したくなったものですから、お誘いをお断りしてお四方と別れて一人で宿に帰ったのです。大岩さんと彦六さん、亀屋さん大酒さんはその後、居酒屋とかバーとかをもう何軒か回ってから帰られたようですが、大酒さんばかりではなく大岩さんも皆さんもお酒がお強いですわ」
「そうすると連中と別れて宿に帰ってから、お主は一人で布団に入って、ああでもないこうでもないと、ない知恵を絞っておったのじゃな?」
「そうです。その内考え疲れて、我が無才ぶりにげんなりして眠って仕舞いましたけれど」
 補佐官筆頭は冠の上から頭を掻くのでありました。
「で、結局、そのお主の件の句は何時思いついたのじゃな?」
「翌朝早くにが覚めて、何時もの習慣で布団の上で横になった儘寝屁をした時、ふと閃いたのです。それで急いで起き上がって、旅行カバンの中からこの巻物を引っ張り出して、座卓の上に置いた儘にしていた万年筆をとって、忘れない内にと書き留めたのです」
「成程ね、そう云うことじゃったかい」
 閻魔大王官は何度か頷きながら両掌は文机に置いた儘、ゆっくりと後方に身を引いて、その動きの余勢を借りながら、白い顎髭を前にいる我々に誇示するように顔を上に向けて、天井の一点を見据えるのでありました。今度は拙生と補佐官筆頭とがその閻魔大王官の目の動きに釣られて、閻魔大王官の見つめる天井のその一点に、同じように目を向けるのでありましたが、当然ながら別にそこには何もないのは判り切った事ではありました。
(続)
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