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もうじやのたわむれ 129 [もうじやのたわむれ 5 創作]

「それがな、その名前の通りヤツは大酒呑みでな、その酒が原因で、補佐官をしておる時に忘年会かなにかの折り、省家的大失態を演じてしもうてな、閻魔庁を馘首されて、それで自棄になったようで、竟には地獄省を出奔して仕舞うたのじゃよ」
「忘年会で大失態、ですか?」
「日頃から仕事でも私生活の面でも憂さが溜まっておったのじゃろう。すっかり酩酊して、ちょっとした言葉の行き違いから、複数の閻魔大王官を纏めてぶん殴って仕舞うたのじゃ」
「そんな大それた事を仕出かしたら、それは懲戒免職にもなりますかなあ」
 補佐官筆頭が眉根を寄せるのでありました。
「まあ、極楽省に逃げる事は出来んから、そうなると後は準娑婆省しか行く処がないでのう。そいで三途の川往来の返り船で密航したのじゃ。恒常的に霊口増加の見こめない準娑婆省では、閻魔庁へ行きたくない亡者の違法滞在も、地獄省やら極楽省からの亡命も大歓迎でな、而も地獄省と準娑婆省の間には犯罪霊引き渡し条約なんぞも締結されておらんから、大酒のヤツもまんまと亡命に成功したと云うわけじゃ。それに由緒正しい地獄省閻魔庁の元職員だったと云う経歴で、準娑婆省ではえらく優遇されておるらしゅうて、なんでも向こうの政府機関の要職に就いておると、風の噂に消息を聞き及んでおったのじゃが」
「ふうん、そう云う方だったのですか、あの大酒呑太郎さんは」
 補佐官筆頭がそう云いながら、屈していた上体を起こすのでありました。「あの出張の折、その大酒さんの趣味が俳句とか俳諧だとか川柳と云うので、年齢は随分離れているのですが、私とは妙にしっくりいきましてね、色々楽しい話しなんかを聞かせて頂きました」
「ほう、あの大酒の趣味が俳句かいの」
「ええ、なかなか勉強されているようで、色々蘊蓄をお聞かせいただきましたよ」
「あの男は実用主義一点張りの無粋な男と云う印象じゃったがのう。準娑婆省に行ってから、そう云う趣味を嗜むようになったのかいのう」
「まあ、ご自作の句は謙遜からかご披露頂けませんでしたが、拝聴した俳句や俳諧批評とか芸術論的なお話しは成程と唸るような内容でした」
「大酒は妙に凝り性な面があったからのう。まあ、凝り性と云うのか偏執的と云うのか」
 閻魔大王官が拙生の頭上の天井辺に徐に視線を馳せながら、往時の大酒氏の様子を思い出すような素ぶりをするのでありました。
「今後の私にとっても、大いに参考になる俳句論でありました」
 補佐官筆頭も閻魔大王官の後ろで、天井の同じ辺りに視線を向けるのでありました。
「その大酒の俳句に関する話しは、交流協会の中で聴いたのかえ?」
「いえ、仕事が終わって、件のお四方で私のちょっとした歓迎の宴を設けてくださいましたので、その席で伺いました。娑婆交流協会の建屋近くにある繁華街の居酒屋でした」
「大酒はその宴席では暴れんじゃったかの?」
「いえ、穏やかに冗談も仰いながら、私等に差された分だけ猪口を傾けておいででした」
「アイツも歳じゃから、前みたいに浴びるようには呑まんようになったのかいのう」
 閻魔大王官はそう云って、天井から視線を水平位置に戻すのでありました。
(続)
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