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もうじやのたわむれ 126 [もうじやのたわむれ 5 創作]

「してみると、考えられる理由は他には何かないのですかな?」
 拙生は閻魔大王官に向かって質問を繰り返すのでありました。
「そうじゃなあ、・・・」
 閻魔大王官はそう云って顎髭を拙生の方に突き出して、暫し天井を向くのでありました。「ああ、そう云えばお主、その句は何時作ったのじゃ?」
 また後ろをふり返って閻魔大王官は補佐官筆頭に聞くのでありました。
「ええと、何時でしたかなあ、・・・」
 補佐官筆頭は考えるように小首を傾げるのでありました。「手前の方に書き留めているのですから、ごく最近の事ではないとは思いますが、・・・」
 補佐官筆頭は衣の片袖の中に巻物ごともう片腕を突っこんで、腕組みをしながら頭を左右にゆっくり動かすのでありました。
「どうじゃな、思い出したかの?」
「ああ、そうだそうだ、思い出しました」
 補佐官筆頭が腕組みを解くのでありました。「この辺の一連の句は、準娑婆省に出張に行っていた時に考えついたものです。ちょいと前で、もうかれこれ二十年かそこいら経ちますかなあ。あの時の出張は確か、ここでの審理結果に亡者様の希望が反映されなかったと云う事態が発生したので、亡者様が娑婆に戻る事になって、その調整のために準娑婆省へ出張したのでした。どうして反映されなかったかと云うと、大王官殿が審理書類を、・・・」
 補佐官筆頭がそこでたじろいだ物腰を見せて云い澱むのでありました。拙生は心中で、ははんと思い当たるのでありました。それは前に審問室で審問官と補佐官から聞いた、この香露木閻魔大王官が審理の決裁書類を、亡者の希望する生まれ変わり処の箱にちゃんと入れなかったものだから、その亡者が娑婆に戻る事になったと云うあの一件であります。屹度その尻ぬぐいのために、補佐官筆頭が準娑婆省に行くはめになったのでありましょう。
「おや、お主は準娑婆省に出張に行ったりするのかえ?」
 閻魔大王官が体を後ろに捻った儘、手にしている巻物の先で補佐官筆頭の顔を指し示すのでありました。その姿勢がえらく窮屈なためか、閻魔大王官はすぐに巻物を持った手を下げて、体の捻りも少し解くのでありました。
「ええ、まあ、・・・」
「準娑婆省なんぞに、何の用事があるのかえ?」
「いや、その、大した事ではなかったのですが、まあ、些細な案件で、・・・」
 補佐官筆頭は愛想笑って、閻魔大王官に大いに気を遣う気配を見せるのでありました。
「準娑婆省なんぞに、地獄省閻魔庁の上級職員が特段用事もなかろうに」
「ええ。まあ、そんな重大な用事ではなかったのですが、まあ、その、ちょっと、・・・」
 閻魔大王官は無責任にも、自分が時折犯すところのミスの自覚がどうやら全くないようであります。補佐官筆頭の方も閻魔大王官に気兼ねして、その御機嫌を損じてはいかんと、ミスを指摘する了見は更々持ちあわさない様子であります。結構深刻且つ重大なミスであろうと思われるのでありますが、それを弾劾するのは憚られる行為なのでありましょうか。
(続)
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