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もうじやのたわむれ 124 [もうじやのたわむれ 5 創作]

「いや、それはどうでしょうかねえ」
 拙生は首を傾げるのでありました。
「おいおい、未だ何も云うてはおらんぞい」
 閻魔大王官が拙生のボケに適切なツッコミを入れるのでありました。
「ああ、これは失礼を致しました」
 拙生は自分の頭を拳で軽く叩くのでありました。
「この補佐官は落語や演芸には興味がないなんぞとしらばくれておるが、実は秘かなその方面の大変な通であってじゃな、娑婆の春風亭柳昇師匠の事もその落語も、ちゃんと知っておって、どうせこちらの世では簡単にはバレまいとたかを括って、不謹慎にも軽い出来心で剽窃を働いて仕舞ったなんと云う、こんなところで手を打たんかのう。つまり要するに、盗作を仕出かしたちゅう事じゃな。この補佐官の無神経面を見ておれば、そう云う、目の粗い不貞々々しい真似を仕出かすかも知れないと、お手前も思わんじゃろうかのう?」
「ああ、成程ねえ。そう云う事ですかねえ」
 拙生は大袈裟な深刻顔で首肯するのでありました。
「あのう、お二方の会話に割りこませて頂きますが、・・・」
 補佐官筆頭が横あいから、そう口を挟むのでありました。「私は決して剽窃を働いたのではありません。第一本当に私は落語にも演芸にも興味がない堅物なのですから」
「その堅物を証明する事は出来ますか?」
 拙生は、犯人の表情の変化を見逃さない取り調べの刑事のような目線で、補佐官筆頭の顔を見据えながら聞くのでありました。
「私の同僚の誰にでも確かめて頂いて構いませんよ、私が嘗てそう云う類の話題を持ち出したり、そう云う類の話しに乗ったりした事があるかどうかを」
「いや、それで貴方がそう云う方面への興味もないし、造詣もさして深くないと云う証言が得られたとしても、それは貴方の韜晦の姿で、実はひた隠しに隠しているなんとと云う事もあり得ますからね。同僚さんの証言だけでは、俄かには信用出来ませんね」
「いやいや、なんで私がそんなまわりくどい真似をしなければならないのでしょうか?」
「いやいやいや、柳昇師匠の句を確信犯的に剽窃するためにですよ」
「いやいやいやいや、そんな事をして何の意味があると云うのでしょうか?」
「いやいやいやいやいや、・・・」
「もうええ、ちゅうねん」
 閻魔大王官が拙生と補佐官筆頭のいやいやの言葉の交換に、丁度良い呼吸でツッコミを入れてくれるのでありました。前の審問室での拙生と審問官と記録官との遣り取りと同じ、かけあい漫才みたいな遣り取りがここでまた再現された事に、拙生はえも云われぬ、して遣ったり感と云うのか、にんまり感というのか、そんな心地よい満足を覚えているのでありました。地獄省にはなかなか話しの通じる、捌けたお調子者、いや、お調子霊と云うかお調子鬼と云うか、そんな連中が揃っているようであります。堅物と自称する補佐官筆頭ですらこうでありますから、拙生が地獄省を選択した事は、全く以って正解でありました。
(続)
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