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もうじやのたわむれ 123 [もうじやのたわむれ 5 創作]

「その色々の中で、最も妥当と思われる理由とはどのようなものでしょうかな?」
 拙生は、今度は閻魔大王官に視線を据えて聞くのでありました。
「まあ、この補佐官が前に何処かの居酒屋で日本酒を一献酌み交わしながら、同好の友達と俳句の話しやらをしていたとするわいな。その折り、その友達が比較的最近の娑婆の事情に詳しい仁で、春風亭柳昇師匠とやらの件の落語を知っていて、それをこの補佐官に紹介したとするわいな。酒の席での四方山話の中の一つの話しでもあるし、明くる日になったら、この補佐官はその落語の話し等すっかり忘れて仕舞うたとするわいな。かなり暫く経って、一句捻ろうとしていたらふと、その時その友達から聞いた柳昇師匠とやらの句が、その友達に聞いたと云う事自体も失念した上で、どうした按配か頭の中に電気がついたようにポワンと浮かんだとするわいな。で、補佐官当人はそれが前に友達に聞いた、柳昇師匠とやらの落語に出てくる句であると云う認識も当然ない儘に、自分の全くの思いつきの句であると云う積りで、この巻物に書き留めておいたなんと云う理由は、どんなものかいな? これはちょいと、推理としてはまわりくどいと云うきらいはあるかも知れんがのう」
「ははあ、成程。しかしその理由で、一字一句同じに、句が捻られるものでしょうか?」
「捻られるかも知れんし、捻られないかも知れんなあ」
 閻魔大王官はそう自信なさ気に云って、顎髭を鷹揚に扱き続けるのでありました。
「補佐官さんにお聞きしますが、頭の中で、ポワンと電気がつきましたか?」
 拙生は補佐官の方に視線を向けて聞くのでありました。
「いや、電気は全くつきませんでした。なにせ私は非才なものですから、句を捻る時は何時も四苦八苦しておりまして、これは別の言葉で云い換えるならば暗中模索と云った状態なものですから、つまり要するに暗い儘と云う事になります。電気はつきません」
「ああ成程。上手い」
 拙生はそう云って小さな拍手を補佐官に送るのでありました。「嘗て友達と、娑婆の落語の話しをしたと云う記憶はおありで?」
「ありませんなあ。私は落語とか演芸には然程興味がありませんから」
「補佐官さんはこう云っておられますが?」
 これは閻魔大王官の方に顔を向けて云う拙生の科白でありました。
「おいおい、ここは四の五の云わずに、そうかも知れませんとかなんとかシレっと云っておれば、この話しはこれでお仕舞いに出来たものを。この、気の利かん馬鹿たれが」
 閻魔大王官が舌打ちをしながら後ろをふり返って、件の補佐官を睨んで、そう恨みがましく叱責するのでありました。
「ああ、申しわけありません。大王官殿のそんな了見をまるでお察し出来ませんで」
 補佐官が頭を何度も下げながら謝るのでありました。
「まったくもう、そんな鈍感でよくワシの補佐官筆頭が務まるものじゃのう」
 閻魔大王官はそう愚痴りながら、顔をゆっくり拙生の方に戻すのでありました。「さすればこう云う理由なんぞは、どうじゃろうかのう?」
 閻魔大王官は顎ひげを三回扱いて、拙生に新推理を開陳しようとするのでありました。
(続)
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