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もうじやのたわむれ 121 [もうじやのたわむれ 5 創作]

 閻魔大王官はそんなちまっとした応えを返すのでありました。
「そんな事にその巻物を使って良いのですか?」
「なあに、構いはせん。どうせ飾りの小道具なんじゃから」
 閻魔大王官はそう云ってから、広げた巻物を両手でくるくるとまた巻き戻すのでありました。「こんな物は消耗品なんじゃし、若し欲しかったらお手前に進ぜようか?」
「いや、それは拙いでしょう。それに幾ら飾りとは云え、大王官さんが持ってこその、如何にもそれっぽい飾りなのですから」
「まあ、こんな物をお手前が持っていても、邪魔になるだけか、確かに」
 閻魔大王官は云いながら巻き戻し終えた巻物を軽く放り上げて空中で一回転させて、それをまた上手に掌の上に受け止めるのでありました。
「後ろの補佐の方々が持っている巻物も、飾りの小道具なんでしょうか?」
 拙生は先程地蔵局の役人ともめた時に拙生の横に来て、丁寧な口調で拙生を諌めた、一番年嵩らしい補佐官の顔を見ながら聞くのでありました。
「ええ、私等の持っている巻物も装飾品です」
 その補佐官が笑いながら云うのでありました。「大昔にはこれに亡者様の罪状なんぞが書き記してあったのですが、しかし今はもう特に亡者様を審理する事もありませんので、なにも書いてはありません。まあ、手持無沙汰を慰めるために持っているようなものですね」
「矢張り、葱一束とか日本酒とか、書いてあるのでしょうか?」
「いやいや、私のは休息時間中の徒然に、頭に浮かんだ俳句なんぞが書いてあります」
「ほう、俳句をおやりになるのですか?」
「ええまあ。それが私の唯一の趣味なので。まあ、駄句ばかりしか作れませんけど」
「一つご披露願いたいものですな」
「いやいや、もう本当に私の吐くものなんかはつまらない句ばかりで、人様に、いや違った、亡者様に披露する勇気なんぞは全く持ちあわせておりませんから」
 補佐官は顔の前で掌を何度もふって頭を下げて恐懼するのでありました。
「そう云わずになにか一つ」
 拙生は尚も強請るのでありました。
「そうですか、それではまあ」
 補佐官が満更でもない顔をしてそう云いながら、手にしている巻物を広げるのでありました。「ええと、はるさめ、と云うお題でものしたやつですが」
 補佐官はそこで咳払いを一つするのでありました。「船底を、・・・」
「ほう、船底を、・・・」
「船底を、・・・ガリガリ齧る春の鮫」
 拙生はあまりの下らなさにたじろいで、吐く息を思わず止めるのでありました。それにその句は娑婆で聞いた事があるのでありました。確か上野の鈴本演芸場で聞いた、春風亭柳昇師匠の『雑俳』という落語に出てくる句であります。
「うーん、他には?」
(続)
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